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「野球ができることに感謝して」

野球ができることに感謝して

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「野球ができることに感謝して」
 この言葉を、女子野球の取材をするようになってから本当によく聞くようになった。しかもまだ若い、20代の女子選手から聞くことが多いのに驚いている。

 思えば女子野球環境が音を立てて前進し出したのはまだほんの2、3年前のこと。2008年に愛媛県松山市で第3回女子野球ワールドカップが開催されたとき、日本に女子野球があることを知っている人がどれだけいただろう。野球雑誌の編集部でも実態を把握していなかったくらいだから(そのために私が取材を始めたわけだから)、世間の人たちが知らなかったのも無理はない。

 これほど女子野球がマイナーで続けるのが難しい競技なのは、「公式戦に出られるのは男子に限る」という高野連の参加者資格規定と、「野球は男のもの」という偏見があったからだ。この物理的、心理的な壁によって、ある者は野球を諦め、ある者は試合に出られない苦しみをなめ、ある者は海外に活躍の場を求めて旅立った。

 また30年以上も前から女子が野球をする場を独自に作ってきた女子軟式野球クラブチームも、グラウンド一つ確保するにも苦労する状態で、女子野球を野球と認めてもらうまでには大変な苦労があった(「『謙虚に謙虚にやりなさい。そうすればいつか理解してもらえるから』と言ってやってきました」川越宗重・全日本女子軟式野球連盟会長。「シリーズ 指導者たち」より)。
 大学女子軟式野球や女子硬式野球にしてもそれは同じだった。ついこの間まで。

 だから女子選手が口にする「野球ができることに感謝して」という言葉は、苦しかった歴史をもつ分、男子選手のそれに比べてはるかに重い。

                     ☆

 2009年にプロ野球選手・吉田えりが誕生し、女子プロ野球ができたおかげで、世の中の「女子が野球?」という偏見は薄れてきていると感じる。だから今20代の選手は、苦しい時代を経験し、それゆえに支えてくれた人たちへの感謝を体中で感じている最後の世代といえるかもしれない。

 実際、今白球を追いかけている女子中高生に屈託や悲壮感は見られない。みんな自信をもってプレーし、笑顔で夢を語る。これが本来の姿、本来の状態であるとつくづく思う。関係者の努力によって「女子が当たり前に野球ができる時代」がようやく到来しつつあるのだ。

 しかしその一方で思うのは、今の中高生が大人になったとき、どれほどの重さをもって「野球ができることに感謝して」と言えるだろうかということだ。
 別に先人の苦労を忘れるなと説教するつもりはないし、子どもたちに不幸な歴史を背負わせるつもりもない。しかし、野球ができる幸せに慣れ、苦難の歴史を軽んじる人間になってほしくはない。

 その意味で、真摯なまなざしでこの言葉を口にする若い選手がたくさんいることは、女子野球界の幸せだと思う。上から目線ではなく、子どもたちと交流する中でさり気なく、自身の体験を交えながら何度でもこの言葉を口にしてほしい。未来は子どもたちが作っていくのだから。

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