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実感検証

 特集 女子軟式野球をさらに面白く!新規定を検証する

第2部 塁間25m、外野フリーってどんな野球? ベテラン監督たちの実感

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 貴重な感想を聞かせてくださったのは、全日本女子軟式野球連盟(全女連)と全日本大学女子野球連盟(軟式。全大女連)のベテラン監督たち8人である。

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竹中揚子監督(42歳)
「札幌シェールズ」 
球歴/小中高社会人ソフト15
年、女子軟式20年、女子野球日本代表
(硬式)3回 指導歴/女子軟式13年

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飯沼保監督(62歳)
「千葉マリンスターズ」 
球歴/少年野球6年、企業軟式
野球25年 指導歴/女子軟式14年、
少年野球33年

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井上俊夫監督(65歳)
「ウイングスジュニア」
球歴/高校硬式野球(3年時、
東京都春季大会ベスト4) 指導歴
女子軟式15年、中学女子軟式20年、
中学男子軟式40年、女子ソフト5年

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大滝裕生雄監督(46歳)
「苫小牧ガイラルディア」
球歴/小中軟式6年、高大硬式
7年、社会人硬式3年、社会人軟式16年
(うちマスターズ6年) 
指導歴/女子軟式10年

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上坂智監督(56歳)
「熊本暴れん坊ガールズ」
球歴/小中軟式6年、大学軟式
4年 指導歴/女子軟式9年、少年野球
25年 

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榊原和成監督(56歳)
「愛知アドバンス」
球歴/中学軟式3年、高校硬式
3年、社会人軟式37年
指導歴/女子軟式19年、女子ソフト6年

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松村真監督(56歳)
「至学館大学女子軟式野球部」
球歴/小中軟式3年、高校硬式
3年 指導歴/大学女子軟式17年、
ソフト3年

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吉田典宏監督(43歳)
「ダラーズ」
球歴/小中軟式9年、高大硬式
7年、社会人軟式20年  
指導歴/女子軟式15年

※全大女連は全軟連に加盟していないため、今回の規定の対象にはなりませんが、長年、全女連と同じ規定でプレーしてきたため、松村監督には参考までにお話をうかがっています。

<女子野球連盟の規定>
全女連  投本間17m、塁間25m、ホームランライン74-86-74
全大女連 投本間17m、塁間25m、ホームランライン75-85-75

        
            ★ ★ ★

実感検証① 塁間25mってどんな野球?

――女子は体力がないから、サイズを小さくすれば、一般の野球のミニチュア版ができる(一般の野球セオリーが通用する)と思う人が多いようですが。

榊原監督 とんでもない。一般サイズの野球と同じになんて絶対になりません。指導者を経験するとわかることですが、塁間25m野球は別な野球です。足の速い走者が圧倒的に有利なんです。
 たとえば走者二塁の場面でサードゴロが来たとします。一般のサイズなら三塁に走れない所に転がっても、25mの場合、足の速い走者なら進塁できてしまうんです。そのため、1回二塁にけん制を入れ、続いて二塁手が打者走者をアウトにするために一塁に投げたとします。しかしそのボールが届く前にもう打者走者は一塁に到達しているうえに、二塁手が一塁に投げたのを見て、二塁に釘付けにしたはずの走者が進塁してしまうのです。つまりふつうなら走者そのままで1死とれるところを、1死もとれずに一、三塁になってしまうのです。

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 これまで学んできた野球のセオリーが通じないから、最初は「おかしいなあ」とずいぶん首をひねりました。まったく違う野球なので、指導者は25m野球という別な野球のセオリーを見つけ出し、それを選手に教え込まなくてはなりません。
 また一般の野球セオリーが通用しないから、男性指導者が女子軟式野球の指導をあきらめてしまうケースが多いですね。女子野球にとって大きな損失だと思います。
 
大滝監督 私も足の速さが投力より勝ると思います。男子の遊撃手の定位置にいたら、ボテボテのショートゴロなのに、ヒットになってしまいます。一塁に出たら、投手の隙を見てノーサインで三塁まで行くこともできます。だから女子の場合、ゲッツーシフトよりさらに前、という位置で守らせることが多いです。

吉田監督 私も走者の優位性が大きすぎるように思います。盗塁の成功率も高すぎます。
たとえば女子の場合、打ってから一塁に到達するまでの(25mの)平均的な時間がだいたい4秒なんですが、それをアウトにするには通常の位置で守っていたらまず間に合いません。だから浅めに守るわけですが、困るのはヒット性の強い打球を捕ろうとすると、守備位置をもっと下げないといけないことなんです。ビヨンドが出てきて飛距離が出るようになった分、とてもポジショニングが難しい。それも25m野球の特徴だと思います。

飯沼監督 やっぱり盗塁が決まりやすいですね。野手が捕ってから送球するまでにかかる時間より、走力のほうがはるかに勝るんです。だから転がしたらまずセーフになる。だから私は、勝つために走塁とバントの練習をたくさんさせます。25m野球は長打がなくても勝てるから、自然にスモールベースボールになりますね。

松村監督 走力が勝るから、ゲッツーをとれる確率が極端に低いのも特徴です。野球の面白さの一つは、ゲッツーをとったり二盗を阻止したりというスリリングさにあるのに、それが少ないから面白みに欠ける。女子に限らず軟式野球はクリーンヒットを打つのが難しく、連打も期待できないから、なおさら盛り上がりませんね。

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竹中監督 確かにゲッツーは少ないと思います。実は軟式にも、一般と同じサイズでやる「碧南大会」という上位大会があるのですが、この大会ではゲッツーが多いんです。やっぱり塁間2m40cmの差って、ものすごく大きいんです。野球の内容が全然違うから、テレビでプロ野球を見てポジショニングとかカットプレーとか勉強しても、まったく参考になりません。
 結局塁間25mの軟式野球って、きれいなヒットを打って点をとるというより、バントしたり足を使ったり、たたきつけたりっていう、小技で点を取る野球になるんですね。

大滝監督 25m野球のもう一つの特徴は、走力が投力に勝るから、優れた捕手がいるかどうかで勝敗が決まってしまうところですね。

松村監督 そのとおりです。現状、二盗は8割方刺せませんね。地味でしんどいと思うのか、女子はなかなか捕手をやりたがらないので、いい捕手が育ちにくいのも原因かもしれませんが。

<まとめ> 
●25m野球は走力が投力を上回る。
●そのためゲッツーが極端に少ない。
●盗塁成功率が高すぎる。
●走者を刺せる良い捕手がいるかどうかで試合が決まってしまう。
●ゲッツーや盗塁阻止といったスリリングな場面があまり見られないため、試合が面白くない。
●一般の野球のセオリーが通用しない。まったく別物の野球である。
●一般のセオリーが通じないから男性指導者が女子の指導に入りづらい。

実感検証② 投本間17mは適正か

――女子の筋力、体力から見て、このサイズをどう思いますか?

竹中監督 女子は男子より筋力が弱いというのは事実ですが、中学野球部の女子で一般の18.44mでやれている選手はいっぱいいるので、一般のサイズでいいと思います。私は日本代表として女子硬式野球を経験しましたが、重い硬球でも投げられるのですから、それより軽い軟球のほうが、むしろ一般のサイズに向いているのではないかと思います。

松村監督 そうです。女子硬式野球で投げられるのだから、わざわざサイズを小さくする必要はないと思います。

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榊原監督 私は男子より体力が劣る女子だからこそ、マウンド上(25.4㎝)から投球するべきだと思います。マウンドから投げ下ろすからこそ体重のタメ、軸足から踏み出し足へのスムーズな体重移動が生まれ、球速、ボールの回転、変化球のキレなども生まれるからです。ふつうの球場で17mのマウンドを作ってもらうのは容易ではないので、やはり18.44mにして既存のマウンドを使えるようにするべきです。また私は塁間25mに反対ですから、塁間とのバランスを考えても、一般と同じサイズにするべきだと思います。

大滝監督 実は私は、女子野球の指導者になったばかりのころは、女子も一般と同じサイズにするべきだと思っていたんです。でも10年間指導してきて、現在の女子の体力、技能、投手が投げるスピードを考慮すると、17mであることに問題はないと思うようになりました。それは中学生であっても大人であっても同じです。
 その一方で、たとえば中学野球部で18.44mで男子と一緒にプレーし、対等に戦える選手もたくさん見てきました。では17mと18.44mのどちらがいいのか。現段階では結論は出せません。

吉田監督 私もわからないというのが正直なところです。現在の女子の球速や変化球の精度からすると17mは妥当なように思いますが、17mと18.44mの野球しか見たことがないので、それが本当に女子に合っているのか判断できません。
 ただ、女子児童が少年野球サイズからいきなり一般サイズになった場合、果たしてどれだけの選手がついてこられるのかなという不安はあります。

――球場や、女子軟式野球が置かれている環境からはいかがですか?

上坂監督 私がいる熊本県の場合、女子中学生選手は野球部と兼部している選手が多いので、18.44mに慣れています。変化球なども、このサイズに合わせて練習しているので、一般と同じサイズでやっていただかないと投手がかわいそうなんです。おそらく熊本に限らず、中学野球部と女子チームを兼部する選手を抱えているチームは、どこも同じかと思います。

竹中監督 もう一つ、地方にはまだまだ女子チームが少ないので、そういう所では中学野球部や一般の社会人野球チームと練習試合をすることが多いんです。その意味でも一般と同じサイズに合わせてほしいです。

上坂監督 毎年熊本県で開催している女子中学生の九州大会で起きたことをお話しします。11年の第1回大会では、マウンドは17mで始めましたが、学童用プレートが邪魔になり、その撤去、現状復帰に手間がかかりました。それに懲りて、翌年からは投本間、塁間とも、一般と同じ18.44m、27.431mで行っています。このように運営面からみたサイズの検討は避けて通れないと思います。

<まとめ>
●体力や技能の面から見て、 
「17mは妥当」
「一般サイズでも十分できるので、18.44mにそろえるべき」
に意見が分かれました。
●男子と試合をしたり野球部と兼部する選手のことを考えると、
「18.44mにそろえたほうがいい」
●球場設備の面からは、
「17mでマウンドを作るのは色々な意味で難しいから、既存の設備を生かせるほうがいい=18.44m」
※塁間に関しても、25mにするとベースは移動式になり、固定ベースを留める穴を埋める作業が必要になる。今回の指導者たちではないが、そこに足をとられる危険性を指摘した人もいた。上位大会で使うきちんとした球場であればあるほど、17m、25m野球では既存の設備との折り合いが難しくなるようだ。

実感検証③ ホームランラインは本当にいらないのか

――全女連や全大女連の大会では、現状、HRラインはあってもフェンスやカラーコーンを置かないことがほとんどですが、その実感から、新規定は妥当だと思いますか? 

松村監督 いいえ。まず第一に、野球の醍醐味はホームランです。それをわざわざなくす意味がわかりません。東海の大学女子リーグではフェンスは置きませんが、最近、外野にカラーコーンを置くようになりました。少ないとはいえ、1大会に1、2本はホームランが出ていて、やっぱり盛り上がりますよ。
 それにみなさん、女子は飛ばせないと思っているかもしれませんが、女子軟式野球だって飛ばせるんです。大学選手権が行われている魚津市桃山野球場(両翼92m、中堅122m)のフェンス直撃弾もありましたからね。

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竹中監督 そうなんです。ビヨンドが出てから女子の飛距離はすごく伸びています。北海道のある球場は女子のサイズでマウンドも造ってくれるし、フェンスも置いてくれるのですが、その球場を使う大会では、毎回ホームランが3本ぐらい出ます。打った選手のうれしそうな顔。ギャラリーの盛り上がりもすごいです。
 全女連の全国大会ではフェンスもカラーコーンも置きませんが、規定どおりHRラインを設けてほしいですね。

吉田監督 スタンドインのホームランは野球の醍醐味だと思います。打った選手の「やったー」という表情、打たれたほうの「やられたー」という表情。それも野球の楽しさの一つです。女子軟式野球の人気を高めたいなら、ホームランは絶対に必要だと思います。
 また選手には足の速い選手、パワーがある選手、小技がうまい選手など色々なタイプがありますが、外野フリーでは、足は遅いけどパワーがある、という選手が輝ける場が減ってしまいます。

飯沼監督 私は規定に合わせてやるだけだと思っているので、HRラインがないならないでいいと思います。ただホームランを狙いたいチームもあるでしょうから、その意味でHRラインはあってもいいですね。

――外野フリーを技術の面からみると?

井上監督 たとえばフェンスを置けば、外野を抜けた打球に対して、守備側の中継プレーで三塁打、二塁打を防ぐことができます。でも「抜ければランニングホームラン」では中継プレーの練習にもならないし、工夫あるカットプレーも生まれません。野球の醍醐味である間一髪のプレーも見られません。 

吉田監督 外野フリーでは、8-6-4-2など、中継が何枚も入るパターンばかりになって、それ以外のカットプレーなど、練習する意味がありませんし、試合も面白くありません。

大滝監督 だから費用はかかってもHRラインを設けるべきだし、カラーコーンではなく、外野フェンスをすべての会場に設置してほしいと思います。  

――全女連や全大女連のHRライン(サイズ)は適正だと思いますか?

大滝監督 全女連の全国大会では、まだ柵越えのホームランを見たことがありません。もちろんフェンスもカラーコーンも置いていないので目測でしかありませんが、それを考えると妥当だと思います。
(同意多数)

松村監督 このサイズではエンタイトルツーベースが非常に多くなるんです。今の大学生は飛ばしますから、もっと伸ばしてもいいと思います。

吉田監督 近年のバットの機能の向上を考えると、もう少し伸ばしてもいいのかなと思います。

竹中監督 バットの性能も選手の技量も上がってきているので、もっと伸ばしてもいいと思いますが、いつもフェンスを置かないので、それを判断するための経験の蓄積がありません。まず規定どおりにちゃんとフェンスを置いて試合をさせてほしいと思います。

<まとめ>
●女子軟式野球人気を高め、技能を向上させるためにもホームランは必要。
●カラーコーンではなく、フェンスを置く。各会場に常備。
●まず規定どおりHRラインを設ける。サイズの検討はそれから。
●今のサイズだとエンタイトルツーベースが多くなる。

実感検証④ 文部省の体力測定データから

井上監督 ついこの間まで「女子野球を自分でする」「監督をする」という視点から、一般の投本間18.44m、塁間27.431mでいいと思っていました。しかし先日、日米女子ソフトボールを見に行って考えが変わりました。サイズは小さいほうがいい。今はそう思います。
 
 とにかく日米ソフトの観客は3万人! 「どうして?」でした。

 その理由が「圧倒的スピード感」と気づいて謎が解けました。近距離から投げられる速球を鋭い振りのバットが打ち返す。長打あり。特設フェンスを越えたホームランあり。そしてファインプレー。魅了されました。

「プレーする側・プレーさせる側」と「それを見る側」では意見が違うと思います。そして今回の私の意見は「見る側」の立場です。女子野球を面白くするなら、絶対に「見る側」の視点が必要だと思います。

 女子の体力の面からも同様に思います。たとえば文部科学省が実施した「平成27年度全国体力・運動能力調査結果」から、中学2年生の男女の平均値を比べてみました。中学2年生を基準にしたのは、女子の場合、そのころの身長が、ほぼ成人の身長になるというデータがあるからです。素人考えですが、このことから筋力も同じであると考えました。

●50m走…男子8.01秒、女子8.84秒。その差、約10%。
●ハンドボール投げ…男子20.61m、女子12.77m。その差、約30%。
 この大差は、あまりボールを投げない女子の経験値の低さからくるものと思われます。
●握力の男女差、約20%。
●立ち幅跳びの男女差、約15%。

 このことからハンドボール投げを除き、男女差の平均値は約15%と仮定し、
●投本間…18.44×0.85=15.674m
●塁間…27.431×0.85=23.31m
 が適正ではないかと私は考えます。これはボーイズリーグの小学生のサイズで、軟式の少年野球のサイズ(16m、23m)ともほぼ同じです。
 現在より小さい値になりますが、ソフトボールのようにスピーディーな競技になり、面白さという点から見れば向上するでしょう。

※管理人注/上記はあくまでも井上監督の個人的な考察だが、WBSCの見解とリンクするところもある。つまりWBSCが決めた女子硬式野球の外野フェンスのガイドラインの最小値(275ft)は、男子の85%に当たるのだ。
 このことから、WBSCは投本間、塁間も大幅に縮めようとしている可能性があるが、もし85%なら投本間、塁間は上記ボーイズの小学生サイズと同じになり、現在の女子硬式野球選手の技量を考えると、大変危険だ。
 今後女子硬式野球もWBSCに対し、女子の規定について軟式と同様に検証、反証する必要が出てくるのではないだろうか。

スポーツ障害の視点から見た規定のあり方

鳥居昭久先生(愛知医療短期大学女子軟式野球部監督)

 グラウンドの規定を決めるにあたって、野球の面白さを担保しつつ、男女の体力差を考慮しないと、怪我に悩む人が増えるのではないかと思います。
 女子軟式野球の遠投、ベースランニングなどのデータはありませんので、他のデータから女子の体力等の予測をすると、以下のようになります。

●筋力差…同じ体重であれば、女子は男子の約80%。
●100m走…男女のタイム比は1:1.15で、女子の力は男子の約87%。

 これらを踏まえて投本間、塁間、HRラインを検討する必要があろうかと思います。

結論

 女子の体力から導き出されるサイズ(あくまでも仮定だが)と、一般の野球理論が通用するサイズとのギャップが大きすぎるように感じる。その差をどうやって埋めるかが、今後の課題ではないだろうか。

 今後の段取りとして、
①まずは軟球による遠投、ベースランニングなどの測定会を実施して、軟式野球における女子の体力(技能)を正確に把握する。
②その値を踏まえて、一般の野球理論が通用するサイズを探る。
 (塁間でいえば25~27.431mまでの間で)
③そのとき、球場や対戦相手、ボールやバットなど、女子の現状を考慮する。

 今年の秋以降、協力者を得て検討していきたいと思う。

 なお軟式野球の特徴として、生涯野球という視点をはずすわけにはいかない。男子の野球に一般と還暦野球があるように、女子の規定も年齢による体力や筋力の差を踏まえて段階的に変えていく必要があると思うが、その検証は野球連盟に任せ、今回は一般の規定の検証に絞りたい。

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