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硬式女子の歴史

特集 2013年5月28日

 カギ握る中学硬式リーグ ~女子野球発展のために~

第1部 中学硬式リーグ・女子チームの歴史

09年「都市対抗野球」前座試合、ボーイズ東日本ブロックvsリトルシニア関東連盟戦(於・東京ドーム)

女子野球界で活躍する中学硬式リーグのOGたち 

 中学硬式リーグといわれてピンと来ない方がいるかもしれないので、まずリーグとその女子チームの概要を紹介しよう。
 中学硬式リーグとはリトルシニア、ボーイズ、ヤング、ポニー、ジャパン、フレッシュの6団体を指し、リトルシニアとボーイズ、ヤング、ポニーの各リーグは全国にチームをもち、ジャパンリーグとフレッシュリーグは九州を中心に活動している(北海道を中心に活動していたサンリーグは2013年1月1日からボーイズリーグと合併し、ボーイズの東日本ブロック北海道支部になった)。

図1 中学硬式リーグOG

 女子野球団体ではないため、リーグ所属の女子選手は女子野球人口にカウントされないことが多いが、全国には相当な数の女子選手が存在すると思われる。試しに近くの中学硬式リーグをのぞいてみてほしい。ポツンポツンとではあっても女子選手の姿を見つけることができるだろう。

 しかしどのリーグも女子の数を正確につかんでいないので、残念ながら総数はわからない。やむなく12年に自力で数えたときはリトルシニア関東連盟の人数をもとに、中学硬式リーグに所属する女子選手の数を1県あたり4.7人、全国で220人と試算した。正しいかどうかはわからないが、大きく外れてもいないだろう。

 右の図1をご覧いただきたい。日本代表選手やプロ野球選手のうち中学(&学童)硬式リーグの出身者をまとめたものだ。
 予想以上に中学硬式リーグ出身者が多いと思うのだが、いかがだろうか。日本代表に何度も選ばれた選手や女子プロ野球の看板選手もいる。ただひたすら硬式野球がやりたくて、様々な困難にぶつかりながらも白球を追い続けた彼女たちが、今、日本の女子野球界をリードしていることに深い感慨を覚える。

 今まで高校の名前の陰に隠れて知られていなかったが、中学硬式リーグ出身者は女子野球発展の立役者であり、その彼女たちを育てた各リーグは、たくまずして女子野球の発展に寄与していたことになる。

 とはいえ、リーグによって女子中学生を受け入れた年は異なる。フレッシュ(70年創設)、リトルシニア(72年創設)、ポニー(75年創設)、ジャパン(90年創設)は創設当初から、ボーイズは07年5月から、ボーイズから分かれたヤングは創設3年目の95年から、それぞれ女子中学生を受け入れている。ボーイズリーグだけは突出して受け入れが遅かったが、図1からわかるように、実際には支部判断などで受け入れていたところもあったようだ(ただし試合に出られない練習生扱い)。

 後述するが、08年以降いくつかのリーグに女子チームが誕生し、女子の活躍の場が増えているので、日本代表やプロ野球選手に中学硬式リーグ出身者が本格的に入ってくるのはこれからだろう。

第一号はヤングリーグの「丹波ヤングガールズ」

対戦相手は主にヤングリーグの男子チーム

 では中学硬式リーグの女子野球の歴史を見ていこう。
 初めて女子チームができたのは08年のこと。ヤングリーグ兵庫東支部の「丹波ヤングガールズ」だ。高校生の全国大会を主催している全国高等学校女子硬式野球連盟の堀秀政事務局長(丹波市在住)が、「中学生の女の子にも硬式野球をやらせてあげたい」と言って立ち上げた。
 ヤングリーグに加盟したのは「協議して女子は高校3年生まで試合に出られるようにしてくれたから」だそうで、高校生も集まっていたチームにとって、それが最適な選択だったという。

 ヤングリーグからみれば内部発生的に女子チームができたのではなく、外部にできた女子チームを受け入れたということになる。10年秋ごろ、兵庫西支部の神戸美蹴館(びしゅうかん)ロケッツに女子チームができたが、充分な人数が集まらなかったこともあり、1年ほどで消滅。そのため、現在は再びヤングリーグ唯一の女子チームとしてリーグの試合に出場し、男子と戦っている。

ヤングリーグ兵庫東支部に所属

 また元々女子野球連盟の人が作ったこともあって女子大会に参加することもしばしばあり、そのときの登録名は「丹波ガールズ」であるため、こちらの名前でご存知の方も多いだろう。

 同チームの特徴は大会に合わせてメンバーを集める選抜チームではなく、通年活動するクラブチームであること。中学硬式リーグの女子チームが増えてきた13年現在でも、クラブチームは丹波ヤングガールズしかなく、また専用グラウンドや室内練習場、遠方から通ってくる選手のための宿舎もあるなど、環境は抜群に整っている。

09年8月から始まったボーイズ女子チームの歴史

 ボーイズリーグとリトルシニアに女子野球環境ができるきっかけになったのは、09年8月31日、社会人の「都市対抗野球」準決勝前に行われたボーイズ東日本ブロックとリトルシニア関東連盟の女子選抜の対抗戦である。女子選手の増加に注目した両リーグが、都市対抗野球の前座として行われている男子対抗戦の中に、別枠で女子の試合も組んだのだ。

ボーイズ選抜はJapan Eastの名前で出場

 1~4回は女子選抜、5~11回は男子選抜というかたちで試合が行われ、女子の試合では、現在女子プロ野球選手になっている栃木ボーイズの石塚ちづる選手が、最速105キロメートルの速球とシュアなバッティングでボーイズ選抜を牽引し、3-2でボーイズ選抜が勝利した。

 前述したようにボーイズリーグが女子選手を受け入れたのは遅かったが、いったん受け入れてからは女子の環境作りに熱心で、実はこの試合に先立つ8月2日、大阪は南港中央球場で東日本ブロック選抜と関西ブロック選抜による東西対抗戦も実施している(第40回記念日本少年野球選手権大会開会式後のエキシビションマッチ)。大雨の後の球場でユニフォームを泥だらけにしての試合だったが、東日本ブロック選抜が11-0と圧勝。そのメンバーが都市対抗野球の前座試合に臨み、リトルシニア関東連盟選抜に競り勝ったというわけだ。

 面白いことにその年の10月28日、今度は大阪で行われた社会人の「日本選手権」決勝の前座試合に関西ブロック選抜が登場。日本女子野球協会が編成した中学生チーム(大阪BLESSと倉敷ピーチジャックスレディース)と対戦し、11-0で勝利している。

 これらの試合に好感触を得たボーイズ首脳陣は、翌10年8月に行われた「第11回 鶴岡一人記念大会」から女子の東日本選抜と西日本選抜によるエキシビションマッチを開催することを決定。今では年に一度の女子の晴れ舞台として定着し、リーグ内はもちろん、高校女子硬式野球部の指導者たちの注目をも集めている。

 ボーイズリーグにはこの東日本選抜と西日本選抜以外にもいくつかのチームができている。まず10年9月に関西ブロックの大阪、兵庫、京都の各支部に所属する選手を集めて結成された「関西ピンクパンサーズ」がある。月に1、2回集まって地域の大会に出場していたが、11年5月ごろに解散。代わりに同じ関西ブロックの和歌山県支部が運営する「関西女子チーム」ができ、大会のときに関西一円の選手が集まって男子と試合をしている。13年5月現在、人数は42人。男子に勝つこともしばしばだという。

 東に目を転じれば、11年8月に東日本ブロックの選手たちが、かつての都市対抗野球のときと同じ「Japan East」という名前で「第2回 全国女子硬式野球ユース選手権大会」に出場し、高校生チームを撃破して3位に入っている。12年は結成されなかったが13年は結成予定だ。

新Japan East。第2回ユース選手権大会に出場 見事3位に入賞!

(注)都市対抗野球の女子による前座試合は09年、10年の2回だけ、日本選手権の前座試合も09年の1回だけしか行われていない。

リトルシニアの動きと中学硬式リーグに求めるもの

 リトルシニアも負けてはいない。都市対抗野球の翌年の10年6月、関東連盟に「LSレディース」が誕生し、女子野球が盛んな関東という土地柄を生かして活発に活動している(LSレディースについては第2部で詳しく紹介するのでここでは説明を割愛する)。
 しかし残念なことにリトルシニアには関東連盟以外、女子チームがない。チームが組めるほど選手がいないというのがその理由らしい。

負けても表情が明るかったリトルシニア関東連盟選抜。都市対抗野球の前座試合にて

 ここで改めて女子中学生の硬式環境を見てみよう。一般的には女子のクラブチームか中学硬式リーグに入るということになるが、関東関西以外では女子クラブチームの数は極端に少なく、各地方に1つあるかないか。つまり中学硬式リーグに入るしかないのが現状だ。

 しかし今はまだ女子育成の体制作りがなされていないため、せっかく入っても次第に体力面で男子に負けるようになり、試合に出られなくなって野球をやめてしまうケースが多い。これでは女子選手は増えないし、地方に女子硬式野球も根付かない。

 そこで求められるのが中学硬式リーグの女子野球への理解と協力だ。もし各リーグが内部に女子チームを作り、年に数回でも試合に出られるようにしたら、どんなに子どもたちのモチベーションが上がることだろう。

「都市対抗野球」の前座試合では3-2でボーイズ選抜(攻撃中)が勝利

 対戦する相手は互角に戦えるという意味で女子チームがベストだと思うが、いきなり複数の女子チームを作るのは難しいだろうから、まずはリーグ内の男子チームと戦うところから始めればいいと思う。
 大切なのは点差がついたときだけ代打で出るのではなく、一人のプレーヤーとして主体的に試合に臨み、経験を積む場を作ること。あわせてリーグ内に女子大会を整備していただければ、さらに女子の育成につながるだろう。

 いや、それなら外部に女子チームを作ってそちらに行けばいいという人がいるかもしれないが、個人的には男子と一緒にプレーする場は必要だと思っている。理由は2つ。まずチームの主力として男子と対等に戦える選手が存在すること。もう一つは甲子園やプロ野球選手を目指して切磋琢磨する中学硬式リーグは、女子にとっても学ぶべきことが多いと思うからだ。

 
 実現するのは決して簡単なことではないだろう。しかし女子野球が盛んになってきていること、しかも高いレベルで活躍する選手の多くが中学硬式リーグOGであることをお考えいただき、女子中学生のための環境作りを検討していただきたい。またそうした環境ができれば新たな選手獲得にもつながるだろう。

 第2部ではリトルシニア唯一の女子チーム「LSレディース」が、どうやって関東連盟の中で活動の足場を作っていったかを紹介する。

図2 リーグ別女子チームの比較

※チーム写真提供/丹波ヤングガールズ、Japan East

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