女子野球情報 

josei

 特集  増えてきた女性指導者 

第2回東京都知事杯で背番号をつけた女性たち

開会式にて

監督5人、コーチ4人の合計9人が登録

 女子野球といっても指導者の9割が男性だ。以前は野球経験のある女性がほとんどいなかったこともあるが、家庭をもち、特に子どもをもつと、週末ごとにチームのために時間を割くことが難しくなるからだろう。

 しかし、それでも最近増えてきたのである、女性指導者たちが。今回ご紹介するのは、先ごろ行われた第2回東京都知事杯(エリエールト-ナメント)で背番号をつけた女性たち。登録したのは監督5人、コーチ4人で、昨年の第1回大会は監督3人、コーチ5人だったから、人数は1人増えただけとはいえ、監督の数が増えているのが目を引く。
 
 どんな女性たちがどんな思いでこの大会に参加したのか、ご紹介しよう。

CASE1 「オール昭島」道祖土香さん

 まず「オール昭島」の道祖土(さいど)香監督から。

道祖土監督(右)は小柄ながらファイト溢れる女性。西武の片岡選手のファン

 昨年もチームを率いてベスト8。今年は残念ながら2回戦敗退となったが、高校時代はソフトボール部、大学時代は母校のソフトボール部のコーチ、結婚し、母親になっても4年前までソフトボールを続けていたという、ソフトボール漬けの人生を送ってきた人だ。現在高2、中3、中1、小4の四人兄弟の母で、息子さんたちは全員野球をやっているという。

「4年前、昭島市が女子チームを立ち上げる際、市の連盟から声をかけていただきました。オール昭島には毎年14、5人の女の子たちが入ってきますが、多くの子が自分のチームではなかなか試合に出られないので、『このポジションをやりたい』というような夢をもっているんですね。それをできるだけ実現させてあげたいと思っています。

初戦の相手「オール江東女子」には2-0で勝利。(オール昭島の攻撃中)

 元気で楽しく、がモットーです。娘がいないので私も楽しませてもらっています」

 試合で劣勢に立たされたときは特に「みんなもっと声をかけてあげたら? 一人でやっているみたいだよ」「そろそろいいんじゃないかな、打線が爆発しても」などと誰よりも大きな声で選手を鼓舞する。

「グラウンドではガンガン言いますよ。私が女なので手を抜いているとすぐわかりますから。せっかくこのチームで集まったので、締めるところは締めて勝つ楽しみを教えたい。ここでステップアップして中学や高校でも野球に関わってほしいんです。

 その一方で今日はどこか具合が悪いのかな、と思えばすぐに声をかけるようにしています。女の視点と母の視点というのでしょうか、それを大事にしながら指導しています」

お気に入りの歌舞伎のポーズで決めてくれた選手たち。「息子たちの試合も見に行きたいですが、大会中はオール昭島が最優先です」

CASE2「大田フェアリーズ」松良初恵さん、鈴木由紀さん

 関わっている中学軟式クラブがライバル同士というのは「大田フェアリーズ」の松良初恵監督と鈴木由紀コーチ。東京都知事杯の会期中、松良監督が指導している「城南鵬翔クラブ」Aチームと鈴木コーチの息子さんが在籍する「グランフレール」は、大田区城南連盟の春季大会決勝戦で戦った(結果は松良監督のチームが優勝)。

松良監督は根っからの野球好き。「初めは球拾いやスコアラーとしてお手伝いを始めました」

「本当は中学の決勝戦のあと2人でフェアリーズの試合に駆けつけるっていうのが夢だったんですけど(笑)、フェアリーズが1回戦で負けてしまったので実現しませんでした」
 と松良監督。

 松良監督は子どものころからトラキチで、昔は掛布の大ファン。野球好きが高じて高校大学と野球部のマネージャーになり、双子の息子さんたちが少年野球チームに入るとお母さんコーチに。息子さんたち(今20歳)が卒団後もずっとコーチを続け、縁あって移籍した「城南鵬翔クラブ」ではAチームと女子部のコーチをしている。
 女子部というのはこのサイトでもお馴染みの「城南鵬翔クラブ 女子部」のことで、11年創部の、東京都でも数少ない女子中学生チームだ。

 3つもチームをかけもちしていると時間のやりくりが心配になるが、
「確かに試合が重なるとつらいですね。でも監督をしているのはフェアリーズだけなので、東京都知事杯や東京都学童女子リーグなど、女子の試合がある時はそれが最優先になります。
 それに私は自分が野球の技術指導をできるわけではないし、城南鵬翔クラブには選手思いの素晴らしいコーチがたくさんいますので、私がいなくても練習に支障があるわけではありません」

 中学生と小学生の女の子の違いについては、
「中学生になると女の子は口が達者になって理屈っぽくなるので、小学生は素直で教えやすいです(笑)。昔と今の違いでいえば、昔野球をやっていた女の子たちは、男子に負けないという気持ちでやっていたと思うんですけど、今は女の子だけで試合をする機会があるせいか、純粋に野球を楽しんでいる子が増えましたね」

 平日は造園会社で経理事務の仕事をし、土日は野球に明け暮れる。
「趣味は…ないですね(笑)。野球に全力投球です」

 松良監督をサポートする鈴木コーチは高2と中2の男の子の母だ。中高とソフトボールをやり、結婚しても地域のチームでソフトボールを続けていたが、
「下の子が少年野球チームにいたときにお母さんコーチになりました。子どもと一緒に体を動かすことが大好きだったので」

 現在は4年生チームのコーチをしているが、チームには鈴木コーチのようにグラブを持って練習をサポートするお母さんたちがけっこういるという。
「体を動かすことが好きなお母さんなら、見ているだけでなく、ぜひ子どもたちと一緒に体を動かしてほしいですね」

前列中央左/松良監督、その隣が鈴木コーチ。2人はフェアリーズで会うまで面識はなかったというが、今は良き仲間だ(写真提供/大田フェアリーズ)

CASE3「狛江MATES」池田由起子さん、宮原智絵さん

「大田フェアリーズ」同様、女性監督と女性コーチがそろっているのが「狛江MATES(こまえメイツ)」だ。

「今は楽しんで野球をしてほしい」と池田監督

 池田由起子監督は小学校時代は東京都府中市の女子チームで野球をし、高校時代はソフトボール、日本体育大学では女子軟式野球部で大学日本一に輝いた。

「10年に狛江MATESができるとき、女の子は女性の監督のほうがいいだろうということで市の連盟からご指名いただきました。野球経験者ということをご存知だったようで、私も女子野球が広がるならと思ってお引き受けしました」

 週3回保育士補助の仕事をしながら、土日はご主人と共にお嬢さん(中3)が小学生時代にお世話になった少年野球チームのコーチをし、MATESが始まればそれを最優先に活動する。ちなみにお嬢さんは中学軟式クラブの「三鷹クラブW」で野球を継続中だ。

「私の子ども時代は女子選手の数が少なく、レベルも今の子より低かったと思います。今の子は女子大会があるなど、恵まれていますね。
 

残念ながら初戦で敗退。「でも去年は試合中泣き出す子がいましたが、今年はそれがなく、成長を感じました」

 MATESは何年も続けることによって、一生懸命がんばろうとする子が増えています。うちは低学年生が半分以上を占めるのですが、低学年生なのに1時間以上も試合に集中できるんです。やっぱり継続するってすごいことだと思います」

 女性が監督である強みについては、
「女性ならではの濃やかな指導ができることだと思います。たとえば女の子はほめれば勢いに乗り、ミスをすれば大きく落ちこむ。そういうことをよく承知していますから。
 いつかは自分の頭で考えて野球をするようになってほしいですが、今は野球って楽しい、もっと上手くなりたいと思ってもらえることをメインに指導しています」

宮原コーチ。2人は地域のソフトボール仲間。池田監督がMATESに誘ったのだとか

 宮原智絵コーチもソフトボールで活躍したスポーツウーマンだ。世田谷区の緑ヶ丘中学で関東大会に出場し、高校はソフトの強豪校、佼成学園に進学。

 現在高1を頭に中2、小3の3人のお子さんを育てながら週3、4回ファミリーレストランで働き、土日はご主人といっしょに小3のお嬢さんの少年野球チームでコーチをしている。
「母娘でキャッチボールですか? よくしますよ!」

 池田監督との役割分担については
「私はサポート役なので、たとえばショートがゴロを捕ってファーストでアウトという場面のとき、監督がファーストの子をほめたら、私はショートの子をほめるというようなことをしています。
 また女の子は男の子と違って『こうしなさい』と言われるとそれを黙々とやり続けようとするし、落ち込みやすいところがあるので、言葉には出さない女の子の思いを表情から汲むようにしています」

「秋にまた女子学童大会があるので、子どもたちには『この大会がスタートだよ』と言っています」(池田監督)

CASE4「墨田ブラックファイヤーズ」山田尚子さん

 家族そろってどっぷり野球浸け、というのは墨田ブラックファイヤーズの山田尚子監督だ。

昔は女子野球の指導者になるなんて考えてもみなかったという山田さんだが、同チームの監督になって早5年

 子どものころから父とよくキャッチボールをしていたというが、野球を始めたのは大人になってから。友達に誘われて神奈川県の女子軟式チーム「ラフズラッシュ」に入団した。  
 チーム消滅後は墨田区でご主人が監督、尚子さんがキャプテンという男女混合チームを結成し、月1、2回のペースで活動している。何よりも体を動かすことが大好き。

「ブラックファイヤーズの監督になったのは、区の連盟が野球経験者の女性を探していたからです。たまたまご縁があってご指名いただきました」

 小5と小1の息子さん、年中のお嬢さんも野球選手。週末の山田家はユニフォームの洗濯やお風呂で、石鹸の泡と喧騒? に包まれる。
「自営業なので多少は時間の融通はききますが、それでも女子の監督と夫のチームのキャプテンと仕事の掛けもちは大変です。でもやっぱり子どもたちの笑顔を見るのがうれしくて。野球経験が浅いので技術指導というよりその子のいいところ、いいプレーをほめることを心がけています。それをきっかけに野球を好きなってもらえればうれしいですね。

 女性指導者はもっと増えてほしいです。子どもたちにも『早く監督やコーチになって』と言うんですが、みんなまんざらでもない顔をしていますよ(笑)」

「女の子同士、すごく仲がいいですね。子どもは素直でかわいいです」と微笑む(写真提供/墨田ブラックファイヤーズ)

CASE5「日野ドリームズ」山口可尚子さん

 監督に「女の子の気持ちがわからないから女性がいてくれると安心」と言われて参加したのが「日野ドリームズ」の山口可尚子コーチだ。小中高とソフトボールをし、杏林大学在学中、誘われて多摩美術大学女子軟式野球部でプレーした。

「子どもたちの成長を見たりサポートするのはすごく楽しいし充実していますよ。みなさんもぜひ」と山口コーチ(写真提供/日野ドリームズ)

 社会人になり、結婚し、自分で子供服の店を経営していたが、息子さんが小1で野球を始めるとき、「この子とちゃんと野球をやれるのはこの6年間しかない」と思ってきっぱり店をやめ、医療事務の仕事に転職。出勤前にキャッチボール、夕方はノックという生活を続けている。息子さんは今4年生。小学1年生のお嬢さんは「私は野球はしない」と言いながらも毎日素振りを欠かさないという。

「小学生は技術的にも人間的にも未熟で、まだどうやって野球と向き合っていくのか、その姿勢ができていません。指導者としてはまずそれを作らなくてはいけないと思っていますが、幸いドリームズの塚本監督も人間形成や目標に向けて努力することを大切にする方なので、気持ちを一つにしてやっています。

 女の子の野球というのは不思議で、ここぞというときに急にスイッチが入って、あれ、この子、こんなことができたっけ? というようなすごいプレーや爆発的なパワーを見せてくれるんです。そして期待すればするほど応えてくれる。それがうれしいですね。
 
 野球が好き、やりたいという気持ちも男の子より強い気がするので、これからもっともっと技術力を上げ、成功体験を積ませてあげたい。そしてこの先、中高大と野球を続けていってほしいですね。
 私自身、自分はもっとやれたんじゃないかと思いながら現役を終えたので、子どもたちにはあとで後悔しないように全力を尽くしてほしいと思っています」

 後列中央が山口コーチ、その隣が塚本監督。(写真提供/日野ドリームズ)

CASE6「品川レディース」小澤江里さん

日女体の監督も品川区の監督も「お世話になったことへの恩返しの意味もあって引き受けました」

 最後に「品川レディース」の小澤江里監督を紹介しよう。

 小澤監督は昨年「日本女子体育大学女子軟式野球部」の監督として、大学女子野球日本一になった人だ。現在は都内の児童センターで児童育成指導員をしながら、日女体のコーチと女子軟式チーム「パラドックス」の選手、品川レディースの監督を掛けもちしている。 
 今回唯一の独身、花の20代だが、品川区の少年野球チームを振り出しに、中学野球部、男子クラブチーム、女子クラブチーム、日女体と、野球のキャリアは一番長い。

「レディースの監督をやらせていただいたのはご縁ですね。仕事帰りに偶然区の連盟の副会長にお会いしたんですが、昨年私が大学選手権の優勝監督になったことをご存知で、それでやらないかと誘われたんです」

 野球の実力、指導力とも定評がある

 小澤監督の夢は女子野球をオリンピック競技にし、世界に広めること。
「それで女子野球を広められたらいいなと思ってお引き受けしました」

 でも大学生と小学生では指導の内容が違う。さぞとまどったのでは?
「いえ、仕事が子どもと接することなので抵抗なく飛び込めました。ただ大学生とは技術とか戦略とか高いレベルで野球をしますが、小学生は『声を出そうよ』なんていうところからやらなくてはいけないし、選抜チームなのでみんなの気持ちを一つにするのが大変でした。

「この子たちが中学に行っても野球を続けられる環境を作らなくてはいけませんね」

 でもボールは一つしかないんだから、一人でやらずにみんなで助け合って追いかけようよって声をかけているうちにまとまってきました。

 みんな野球が好きで好きで、うまくなりたくてしようがないって感じですね。女の子だけで試合をするのが楽しくて、普通の試合と女子の試合が重なると、女子のほうに行きたいっていう子が多いんですよ。

 子どもたちは女性指導者のほうが萎縮せずに話せるから、もっと女性指導者に出てきてほしいですね。女性指導者が増えたら女子選手がもっと増えるし、人が増えればまだ女子野球が普及していない地域にも女子チームができるでしょう。世界に羽ばたく人材もきっと出てくると思うのです。
 
 独身の方でもお母さんでも、もてる力をぜひ地域のために生かしていただきたいですね」

品川レディースは3回戦で惜敗したが、「女の子だって男の子に負けないくらいがんばれます。秋の女子大会には成長して帰ってきてください」と選手を励ました

求められる女性指導者たち

 このほかお母さんコーチとして6年目、女子チームのコーチは2年目という「立川レディース」の堀内久美子コーチなど、野球に対する熱い思いをもった女性たちが参加した東京都知事杯。

監督ナンバー「30番」をつけた女性たち

 大学選手権優勝監督から専業主婦までその経歴は様々だが、みんな野球が大好きで、限られた時間をやりくりしながら自身の経験を生かして指導にあたっていた。その背中を押すのは連盟でありチームの男性指導者であり、選手、保護者、そして家族である。30番(監督)、29番、28番の背番号には、そうした指導者自身と周りの人々の思いが詰まっていた。

 これから時代は女性指導者をさらに必要とするようになるだろう。女性としての視点、母としての視点が導入されることで指導は厚みを増し、男性とは違った観点で環境作りもできるからだ。ぜひ家族の理解を得て、もてる力を女子野球のために生かしていただきたい。

 子どもたちにとっても、周りへの感謝の言葉を口にしながらイキイキと人生を楽しんでいる女性指導者たちは、きっと素晴らしい先達になるに違いない。

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