女子野球情報 

sekuhara

女子野球選手とセクハラ

画像の説明

男子は暴力、女子はセクハラ?

 大阪市立桜宮高校バスケットボール部の主将が、顧問からの体罰を苦にして自殺した事件以来、体罰を許してはいけないという世論が高まっている。昔から何度も繰り返し発せられてきたメッセージだが、人間の意識に関わる問題だけに、なかなか改善しないのが残念だ。

 女子野球の場合、今のところ私の耳に指導者の暴力の話は入っていないが、代わりによく聞くのがセクハラだ。
 特にかつて女子が野球をするのが珍しかった時代はセクハラは日常茶飯事だったと聞く。たとえば男子チームと試合をすると、バッターボックスに立てば「いいお尻してるね」と言って触られ、塁に出れば体を触られたり卑猥な言葉をかけられる…。セクハラから逃れることに必死で試合に集中できないこともあったそうだ。
 またチームの指導者に性的嫌がらせを受けて野球をやめてしまった選手もたくさんいると聞く。だから女子野球界が抱える深刻な問題の一つは、暴力よりセクハラかもしれない。

 私自身、セクハラを受けた女子選手を何人も見聞きしてきた。以下は女子チームと、一般の少年野球チームや中学硬式チームでの出来事だ。 

 たとえば連盟や大会の懇親会で女子選手や女性指導者がお酌を強要されるケース。昔の女子プロ野球でもよくあったことだそうだが、最近でも大会スポンサーに対し、連盟役員などが「誰のおかげで試合に出られると思っているんだ」と言って選手たちにお酌をして回るよう指示を出したことがある。
 自ら進んでお酌をするのならいいのだが、事前にこういう話をすることが果たして許されるのだろうか。連盟の役員は男子選手にも同様の事を強要するのだろうか。答えはノーだ。競技者は競技者として結果を出すのがスポンサーに対する恩返しなのだから、お酌をすることで謝意を示す必要はないのである。

 また「女子だからさ、雰囲気を盛り上げてよ」と言って男子の試合の前に女子の試合を設定したり、チアガールのようなことをさせるのも、競技者としてのプライドを傷つける。

 子どもの世界でもセクハラはある。ある女子学童大会では指導者のセクハラが発覚して出場できなくなったチームがあるし、娘が指導者からセクハラを受けたといって抗議した保護者の話も時々聞く。またちょっと方向は違うが、選手の起用をほのめかして母親と関係を結ぼうとした指導者や、娘の起用を少しでも有利にしたいと自ら監督を誘う母親の話も、たまにだが聞く。一番あきれたのは監督の夜伽役の母親を決め、逆らうと選手ごと追い出すチームの話。遠征の夜は選手(このときは男子)の目の前で母親が監督と共にホテル街に消えるという、そんなふざけたチームも実際にあった。

チームの主力選手を襲ったセクハラ事件

 セクハラといってもいろいろあるが、以下に私が見聞きした中で最も不幸な例をご紹介する。同じ事が二度と起きないために、あえて書きたいと思う。

 一般少年野球チームでの話だが、チームの主力として活躍するある女子選手がいた。
 運動神経が良かっただけでなく練習熱心でもあった彼女は、いつの間にかチームの若いコーチに目をつけられ、セクハラを受けるようになっていた。
 たとえば「朝練」と称して呼び出され、行ってみたら来ていたのは彼女だけ。練習の合間に物陰で体を触られたり、抱きつかれたりしたという。また送り解散(指導者の車に子どもたちを乗せ、一人ずつ家まで送ること)のとき、わざわざ彼女を最後にし、車の中で体を触る。
 お決まりの台詞は「誰にも言うな、言ったらひどい目に遭わせるぞ」。彼女は震え上がり、親にも監督にも言えず、次第に元気を失っていった。若いコーチは彼女の自宅の周辺をウロウロするようになり、彼女は人知れず恐怖におびえ続けたという。

 セクハラを受けるようになってかなりたったころ、様子がおかしいことに気づいた母親が娘から話を聞き出し、事実が明らかになった。そういえば朝練に行きたがらなかったっけ、帰ってきたときに元気がなく、一人で留守番するのも嫌がったっけ。なんであのとき気づいてやれなかったんだろうと母親は娘を抱きしめて泣いたという。

 すぐに監督と球団代表に話をしに行ったが、面倒に巻き込まれるのを恐れた代表が、監督に「関わるな」と命令。監督も「2人は恋愛関係にあったんじゃないか。個人対個人の話だからこちらは関係ない」といって問題の解決から逃げ、再発防止策を練らないのはもちろん、コーチを叱ることすらしなかったという。唯一とられた「解決策」は、そのコーチをほかの学年のチームに移動させることだけ。コーチからだけでなく、監督や代表からも被害を受けた選手とご家族の心の傷はいかばかりかと思う。

 明らかな犯罪であるにもかかわらず、こうした問題はなかなか表面化しない。セクハラの被害者は、根も葉もない噂が流れる二次被害を恐れて口をつぐんでしまうからだ。しかしこの事件が表面化したのは、被害に遭った選手自身が「どうして警察に言ってくれないの?」と涙ながらに母親に訴えたからだった。
 監督や代表、問題コーチの家族との不毛な話し合いに疲れ果てていた母親だったが、彼女のこの言葉に意を決して警察へ。選手は何度も事情聴取され、被害の状況を語り、涙を流したという。また母親は警察の求めに応じてコーチの前科や性癖を証明しようとほかの被害者に証言を頼んだ。しかし誰も言葉を濁して協力してくれなかったという。

 結局この事件で問題のコーチが逮捕されることはなかった。小学生の勇気に対し、周りの大人も警察も何もしてやれなかったのである。残ったのは選手と家族の心の傷だけ。唯一の救いは、チームメイト(男子)の信頼を得ていた彼女が、彼らとの交流を支えに中学に行っても野球を続けたことだろうか。(ちなみにこのコーチは数年後、職場で別なわいせつ事件を起こして逮捕されている)

 この事件を見るにつけ、セクハラは問題の性質上、起きる前に防ぐことが大切だとつくづく思う。それゆえにまず指導者がセクハラを防止するという意識を強くもつことが重要だ。加えて「ボランティアだから」という意識を捨てることも重要だと私は思っている。

 野球に限らずアマチュアスポーツはお金ではなく人の善意で成り立っているだけに、「無償で指導をしてやっているんだから文句を言われたくない」とか「ボランティだからここまでやればいい」という指導者が生まれがちだ。逆に「ボランティアでやってくれているのに文句は言えない」という受け手の心理も生まれる。

 しかしこうした誤った認識による慢心やチェック機能の不全がセクハラの温床を生み、責任から逃れ、解決から逃げる心の弱さを生むのだ。悪いことを悪いと認めないチームなど、存在する意味がない。選手一人守れない人間に、指導者の資格などない。

選手の身を守る具体的な方法

 選手たちをセクハラから守るためにできる具体的な方法はなんだろう。
 一つはチーム選びだ。選手が未成年の場合、保護者が入団前にチーム見学を充分にすることが大切だろう。できれば入団している選手の保護者から情報を集めよう。普通は練習方法とか保護者の負担とか進学先へのパイプといった情報を集めると思うが、そのなかにセクハラも加えよう。まだ問題が起きていなくても、セクハラに対する感度があまりにも鈍い指導者は避けたほうがいいと私は思う。

 保護者による監視の目も大切だ。前述したようにセクハラの場合、二次被害を恐れて協力者が出にくく、被害の実態を暴きにくいことがあるので、事前に仲のいい母親同士で異常なサインを連絡しあう態勢が作れればいいのだが。子どもの場合、何か問題があれば元気がなくなるなどのサインを出しているので、子どもの状態観察も大切だ。

 選手自身も意識して身を守る必要があるだろう。女子チームの場合、非常によく見るのが公衆の面前での着替えだ。グラウンドのあいているところで集団で楽しくおしゃべりしながらユニフォームを脱ぎ、私服に着替える。集団心理というのだろうか、臆することなく着替えていますね。あれ、やめましょう。どこで誰が見ているかわからないのだから。第一、人前での着替えはマナー違反です。

 一度中学生チームの監督に注意をしたことがあるが、男性だから「お前たち、トイレで着替えろよ~」なんて遠くから声をかけるだけで、選手たちは皆「何言ってんの」的な目でチラッと監督を見ただけ。そのまま楽しそうに着替えを続けていた。
 こういうのなどはお母さんたちにぜひ注意をしていただきたいですね。また大学生や社会人のみなさんは分別があるのだから、自発的にやめていただきたいと思う。子どもたちが真似をしますよ。

 お酌やコンパニオン的な行為を要求されたときは、やんわりと断っていくしかないだろう。断ると連盟の心証が悪くなる、協力が得られない、とおっしゃる向きもあると思うが、だからといってそのままにしていては何も変わらない。第一男性の中にはこれがセクハラにあたるという意識すらない人もいるのだから、それは不快なことなんだよとわかってもらうところから始めなくてはいけない。
 古くからの女子選手のなかにはこうした苦労を重ねながら女子野球環境を築いてきた人もいるので、機会があれば先輩に相談してみるのもいいだろう。

 女子野球はまだまだチームが少なく、セクハラまでふくめて入団を検討できる状況にないかもしれない。しかし一度被害に遭うと深い心の傷になり、選手生命も失いかねないのがセクハラだけに、ぜひ知恵をしぼって身を守ってほしい。不幸にも被害に遭ってしまったら、警察だけでなくセクハラに詳しい弁護士に相談することをおすすめする。

 また指導者や連盟のみなさんも、セクハラは犯罪であり、体罰同様、許してはいけないものだという意識を強くもっていただきたい。困ったことに性癖というのはなかなか治らないものなので、もし悪質なセクハラをする人間がいたら除名するくらいの覚悟をもって臨んでほしい。

 

powered by Quick Homepage Maker 5.3
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional