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 特集 

やるな東海! 大学女子軟式野球界の試み

学生による審判講習会(桜花学園大学のグラウンドで)

リーグ戦+イベント。日本初の意欲的な試み

 全日本大学女子野球連盟東海支部(軟式)が画期的なイベントを開催すると聞いて、取るものもとりあえず駆けつけた。抜けるような青空が広がる4月27日(土)。会場は愛知県豊明市にある桜花学園大学だ。

桜花学園大学

 
 東海地方の大学女子軟式野球は92年に金城学院大学の竹内通夫教授が東海初の女子野球部を作って以来、多いときには8校が活動していたが、2013年度は皇學館大学、椙山(すぎやま)女学園大学、中京大学、至学館大学(硬式野球部もあるが軟式野球部もある)、桜花学園大学、愛知医療学院短期大学の6校が活動している。

 
 さて何が画期的かといえば、春のリーグ戦に合わせて学生主体で東海の全大学チームを集め、勉強と合同練習の場をもつというのだ。大学にしろクラブにしろ、リーグ戦と連動してこういうイベントが行われるなんて聞いたことがない。

 この全国でも初めての試みは、昨秋開かれた「理事(監督など)・主将会議」の席で決まったという。同会議は桜花学園大学の近藤正春教授(女子野球部顧問)と愛知医療学院短期大学の鳥居昭久教授(女子野球部顧問兼監督)が、大学同士交流しながら東海の女子野球を盛り上げようと呼びかけて生まれたもの。学生と指導者が一体となって女子野球を推進するというのも、ありそうであまりない。

当日のスケジュール

 全大学参加の合同練習もすごいが、特に私のアンテナにビビッときたのは2つの勉強会。鳥居先生の「女子野球における外傷・スポーツ障害」の講義と中京大学の学生たちが指導する審判講習会だ。

 なんだ、そんなのふつうじゃないかと思うことなかれ。まず女子野球に特化したスポーツ障害の講義が行われるのは、おそらく日本で初めてということをみなさんに知っていただきたい。

 そもそも女子野球の研究は指導法にしろケガの問題にしろ、専門的に研究している人がほとんどおらず、文献もないに等しい。
 ゆえに私のような門外漢ですら、時々グラウンドで「女子選手の球数制限は男子と同じでいいんでしょうか」「女子は筋肉がつきにくいって聞くんですけど、どういうトレーニングをさせたらいいですか?」なんて指導者の方々に聞かれたりするのだ。もちろん私にわかるはずがない。そしてその質問に根拠を挙げながら明快に答えられる人は、おそらく現時点ではどこにもいないのである。

実行委員の安江さん(左)、松田さん(右)

 それだけに鳥居先生が女子アスリートの研究資料や自身の研究を元にしながら女子野球のスポーツ障害の講義をするのは、実に画期的で意欲的な試みなのだ。

 もう一つ、大学女子野球選手対象の審判講習会というのも日本初だ。
 企画の発端は魚津の全国大会で昨夏から導入された学生審判員制度。学生の祭典という意味合いから学生自らが塁審を申し出て生まれたもので、大会前日に審判講習会が開かれ、にわか塁審(失礼)がジャッジにあたった。そのとき、東海の学生たちのなかに「もっとちゃんと勉強しなくては」という思いが芽生え、今回の講習会に結びついたのだという。

 もとより審判員の資格を取るためのものではないが、全国大会で正しいジャッジを下すうえでも野球という競技を知るうえでも、とても重要な企画だと思う。将来教員になる人も多い大学野球であればなおさらだ。また「ちゃんと勉強しなくては」という思いを実際に審判講習会というかたちで実現した東海の学生たちの意識の高さと実行力も素晴らしい。

 当日のスケジュールは右上の画像をクリックしてご覧いただきたい。左上の写真の2人は今回のイベントの実行委員である春季リーグ幹事校、中京大学の安江あ也香選手(左・3年。愛知高校)と松田美砂選手(右・3年。倉敷中央高校)だ。

勉強会+合同練習。自分たちで企画したからこそ面白い

 写真を交えながらイベントの詳細をご紹介しよう。

1、鳥居先生のスポーツ障害の講義 

鳥居昭久先生

 固い内容なので参加者はどのくらいいるのだろうと心配していたが、なんと指導者もふくめ60人近くが参加。「やっぱり自分たちで企画したからだと思います」と先の松田選手は微笑む。

 講師の鳥居先生は理学療法士および日体協アスレティックトレーナーとしてスポーツ障害や障害者スポーツなどの研究を専門に行っており、ロンドンパラリンピック日本代表チームの専属トレーナーも務めた方。
 
 野球は草野球程度の経験しかないとおっしゃるが、2010年には魚津市で行われた大学女子軟式野球の全国大会でアンケートによる障害発生調査を実施。肩障害はもちろんのこと、女子選手には下肢障害が多いことや、ケガの発生率は1年生が一番高いことなどを突き止めている。

講義には約60人が参加

 昨夏全国大会の取材に行ったとき、桃山球場の場外テントの中でノートパソコンを広げ、調査の結果を示しながら女子野球選手のケガについて熱く語ってくださったことを思い出す。

「上を目指すためにはもちろん、楽しく野球をするためにもスポーツ障害に対する意識をもってほしい」が持論で、その選手たちへの愛情ゆえに、熱心に講義の準備をし、完全無報酬で臨んだ。

 先生は時にはユーモアを交え、時には学生たちに質問したり実際に体を使わせたりしながら飽きさせることなく授業を展開。1時間しか時間がなく、また第1回ということもあって専門的な話には入らなかったが、選手たちに女子のスポーツ障害の基礎知識を提示し、予防の大切さを教えた。

 このコラムの最後に講義の内容の一部をまとめたのでご覧いただきたい。

2、審判講習会

ケース別ジャッジの練習(一塁)

 中京大学の学生の指導のもと、一塁、二塁、三塁に分かれて基本とケース別ジャッジの仕方を学んだ。大学ごとにまとまるのではなく、各自やりたい塁に入ったため、どの塁の周りにもユニフォームの異なる選手たちが並び、指導役の学生の説明に耳を傾けている。

 実技では「アウト?」なんて自信なさげな人がいたり、判断が人によって異なったりしたが、何度も繰り返すうちに少しずつ慣れていくのがわかった。

 指導役の選手たちは事前にコーチなどにポイントを教わってきたという。資料は松田選手が作成し、同校チームのホームページから学生たちがダウンロードして持参した。
「参加した塁のノウハウをもって帰ってほしい」と指導役の選手の一人、安江さんは目を輝かせながら言う。

 ちなみに会場で選手をサポートしていた至学館大学の松村真監督と中京大学の佐竹創平監督に、「男子大学野球でこういう講習会が開かれたことってありますか?」とうかがうと、「いやあ」と首を振りながら、「そもそも必要ないですから」との答え。ですよね。まさに女子大学野球ならではの光景だ。
こちら二塁 だんだん大きな声が出るように

至学館大学の松村真監督 中京大学の佐竹創平監督(中央)と、渡辺卓也コーチ(左)、三島拓実コーチ 桜花学園大学の葛谷賢司監督

3、昼食

 審判講習会のポジションごとに桜花学園大学の食堂で昼食をとる。同じ釜の飯を食べるのも親睦のポイント。味噌カツ丼とチーズカレーが人気のよう。

6大学の選手たちが一緒に食事。仲良くなれたかな? 注文は粛々と…

4.合同練習会

 メニューは幹事校の中京大学流とのことだが、アップから始まって、昼食を食べたメンバーでのキャッチボール、ポジション別練習、休憩を挟んで中京大学オリジナルのグラブトスタッチゲーム(グラブだけでトスしていく鬼ごっこのようなゲーム。罰ゲームあり!)。

各大学の監督やコーチの皆さんがお手伝い

 指導者たちが打つノックをユニフォームが異なる選手たちが追いかけ、またゲームではあちこちで笑い声や歓声があがった。6大学の学生たちが一堂に会してボールを追いかける姿なんて、めったにお目にかかれるものではない。

「ふだんですか? 試合会場で会っても全然しゃべりません。お互いにチラっと見て、ああって感じで。敵味方ということもありますが、大学間で考え方や実力が違うので、もともと交流はありませんでした。だから仲良くなってもらおうと思ってこのイベントを企画したんです。春季リーグのあとも楽しい企画を準備しています!」と実行委員のお2人。

 イベントは3時過ぎに終了。後片付けをして解散となったが、東海支部では今後も春秋のリーグ戦に合わせて同様のイベントを行っていくという。

 学生たちの意識の高さと指導者たちの熱意、鳥居先生による日本初の女子野球のスポーツ障害講義…。東海、強くなるぞ、と思いながら画期的なイベントが行われた会場をあとにした。

3月に学生たちが集まって拡張した桜花学園大学のグラウンドで。今日ばかりは人口密度が高い!

               

鳥居教授の「女子野球における外傷・スポーツ障害講座」(抜粋) 

本日のポイント

  1. 女子野球と男子野球は用具の差は小さいが、身体機能、技術、経験に大きな差がある。大学女子野球には野球の経験年数から推定して技術的に小学校低学年レベルの選手もいるので、指導者はそれを考慮して指導しなくてはならない。
  2. 野球は投球動作を主とするスポーツゆえ、男女とも肩肘障害が多いが、加えて女子は下肢障害も多い。このことを踏まえて体作りや指導をするべき。
  3. 肩障害の予防-1 ゼロポジション(後出)が重要で、その位置を正確に知ることが大切。
  4. 肩障害の予防-2 肩甲骨の動きをチェックし、その可動域を広げる。また肩甲骨裏や周辺の筋肉を強化する。特に女子選手は男子選手に比べて肩周辺の筋肉の強化が必要と思われる。

Lecture1 男女別の障害発生部位

画像の説明 画像の説明
 肩障害は男女とも1位ですが、女子の発生率は男子より低い。むしろ女子は下肢(足関節、膝関節)障害の多さが際立っており、これは一般的な女子アスリートの実態と一致します。

Lecture2 なぜ女子は下肢障害が多いのか

画像の説明

 男女の骨格で一番異なるのは骨盤。女子は男子より骨盤が大きく、大腿骨が外側へ張り出しています。このため膝を内側に入れようとする力が働き(X脚傾向)、同時にそれに反発するかたちで膝の生理的外反(外側に引っ張ろうとする力)が大きくなります。
 こうした下肢のアライメント(骨格の配列)の差が女子の下肢障害(膝蓋骨脱臼、膝蓋軟骨軟化症、靭帯損傷など)の原因の一つになっています。

画像の説明

 上肢においても似た現象が見られます。女子は男子より肘の生理的外反や伸展(肘関節の開き)が大きい傾向があるため、腕を前に伸ばしたとき、肘がくっつく人が男子より多く見られます。その分、肘の内側にストレスが発生しやすく、野球肘なども起きやすいと推定されます。

Lecture3 女性の体はなぜ柔らかい?

画像の説明

 女性はホルモンなどの影響で靭帯(じんたい)や腱が柔らかくできています。あなたは背中で手がくっつきますか? 柔らかい=強度が低いということなので、靭帯や腱のケガが発生しやすくなります。前十字靭帯損傷の発生率は、一説には男子の7倍ともいわれます。
(ここでいう柔らかさとは関節の柔らかさのこと。ストレッチなどで「柔らかくしなさい」といわれるのは筋肉のことです)

Lecture4 女性ホルモンの影響とトレーニング

 女性ホルモンは骨の形成に関係しています。そのため厳しすぎるトレーニングによる月経異常など女性ホルモンに異常をきたすと、骨の形成に悪影響を及ぼし、骨量の減少、疲労骨折が起きやすくなるといわれています。
 また女性ホルモンの働きで女子は筋肉がつきにくく、その筋力は男子に比べて下肢で70%程度、上肢で50%程度ともいわれています。そのため野球では下肢を鍛える重要性がよく言われますが、女子は上肢も意識して鍛える必要があり、トレーニング負荷量をふくめて男子とは違うトレーニングを工夫するべきです。特に肩甲骨周辺の筋肉は鍛えるべきだと私は考えます。

Lecture5 女子に肩障害が多いわけ

 文化的に見て、女子が腕を大きく振り上げる動作は日常生活において比較的少ないといえます。そのため、急に多くの投球動作をすると肩の故障を起こしやすくなると考えられます。
 また鎖骨の下に神経や血管が通っている空間があるのですが、それが男子より小さいため、肩周りを酷使して緊張が続くと障害が起きやすい。元々野球、水泳など腕を大きく回すスポーツには脱臼が多いのですが、女子は肩周りの組織が柔らかいので亜脱臼の危険性が男子より高いと思われます。

Lecture6 肩障害の発生を左右する肩甲骨裏の筋肉

画像の説明

 手のひらを合わせて押し合ってみましょう。肩甲骨がポコッと出る人は肩甲骨裏の筋肉が弱いので、肩を痛めやすい。この筋肉を鍛えるには、両腕を前に伸ばしたまま肩を後ろに引いたり前に出したりを繰り返す。あるいは腕立て伏せのときこの筋肉が動いていることを意識しながらやる。
 この筋肉は肩甲骨を固定するために働く筋であり、上肢の運動の基盤になるものです。これを鍛えることが腕を振る動作を安定させ、遠心力による牽引力に耐える力を高めます。

Lecture7 肩障害を防ぐために。ゼロポジションを知ろう

 ゼロポジションとは肩甲骨の関節窩(かんせつか。関節のくぼみ)への長軸と上腕骨の長軸が一致している状態のことで、目安として肩甲骨の肩甲棘(けんこうきょく)と上腕骨の長軸が1本のラインになっている状態をイメージするといいです。
 上腕や肘がこの位置にあるときが最も肩関節を回しやすく、負担も少ないとされています。野球でよく言われる「肘を下げて投げるな」という言葉は、このことを指しています。

ゼロポジションはこれだ!
 肩甲骨の肩甲棘(けんこうきょく)長軸と上腕骨の長軸が一致する位置のことです。(右の写真は真っ直ぐな状態であることを示したもの)

<前額面>
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<水平面>
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スポーツ障害の観点から女子野球を考える(後日取材)

 肩障害の発生には使用するボールの種類の影響も少なくないはずです。ボールを投げる際には肩関節に遠心力による大きな牽引力がかかります。肩の筋力が不足している状態ではこの牽引力に耐えきれず、肩関節や周囲筋のダメージが大きくなることは容易に想像できます。

 このことから考えると、たとえば男女を問わず硬式野球の選手が軟式球を投げたり、軟式野球の選手が硬式球を投げる際には細心の注意が必要です。元高校球児(男子硬式選手)が草野球で軟式を始め、ボールが軽いので速球投手になったと勘違いし、肩を痛めた話は少なくありません。
 

 また間違った意味での男女平等意識で女子が男子と同じボール、同じ距離などの条件下で野球をやることには大きな疑問を感じます。もしやるとしたらそれなりのトレーニングと、その結果としての高い体力水準が必要であると考えます。もしも単なる野球経験者の経験則と価値観だけで女子野球に男子野球を押しつけたら、きっとスポーツ障害に苦しむ女子アスリートを増やす結果になると思います。

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