シニア交流戦
コラム ★2014年5月24日
レジェンドがいっぱい。関西、関東シニア交流戦
因縁の対決から生まれたシニア交流戦
2014年3月14日、関西女子野球連盟の発案で関西関東のシニア交流戦(軟式)が行われた。場所は大阪府岸和田市。豊かな自然に囲まれた蜻蛉池(とんぼいけ)公園グラウンドだ。
企画したのは関西連盟事務局のイベント部長?山田真希さん(モンスターズ、39歳)で、1泊2日の旅程を組み、関東のメンバーに参加を呼びかけた。
この日集まったのは「関西オーバー35」16人、「関東オーバー40」13人。
「関西は35歳以上でメンバーをそろえたっていうんですけど、関東は35歳以上にするとすごい人数になっちゃうから40歳以上にしました」
と関東女子軟式野球連盟の小林正代事務局長(東京ウィングス、47歳)は笑う。
関西と関東といえば昔から女子野球が盛んな土地で、どちらも1970年代後半(昭和50年代前半)には女子野球連盟があり、1990年(平成2年)に全日本女子軟式野球連盟ができてからは、全国大会で優勝を争ってきた仲だ。今回集まったのは主にその初期のころのメンバー。関西ではオール兵庫が、関東では町田スパークラーズやバットマンといったチームが特に強かった時代だ。
このシニア交流戦、実は何年も前からやりたいという声があったが、実現のきっかけになったのは昨年の全国大会1回戦のモンスターズ(オール兵庫OGチーム)と東京ウィングスの試合だという。ウィングスの小林さんは言う。
「この対戦は因縁の対決だったんです。実は10年前の第15回大会は私たちが優勝したんですが、3回戦で常勝オール兵庫と当たったんです。忘れもしない、うちの攻撃で無死ランナー三塁の場面。そのとき代打で出たのが私です。私、バットをブンブン振り回すタイプね(笑)。向こうは当然打ってくると思ったでしょう。ところが私、スクイズしました(笑)。で成功して勝った。
それがよっぽど悔しかったのか、当時のメンバーで今モンスターズにいるメンバーたちが、去年の対戦前に『今回は絶対勝つから』と宣戦布告してきまして(笑)。私が10年前と同じように代打で出てセーフティバントを試みたら、警戒していたのかしっかりアウトにされました(笑)。昔のことなのに、みんな覚えているんですね。そんなやりとりがすごく楽しくて、『やっぱりシニア戦、やろうよ』ということになりました」
今真剣勝負をしている皆さん、その対決のワンシーンが十数年後に再現できるとしたら、テンションが上がるのでは? 長く続けていると、実際にそんなことがあるのだそうだ。
女子野球草創期の有名選手がいっぱい
12時過ぎ。まぶしいほどの太陽の光が溢れるグラウンドには、この日のために新調した青いTシャツを着た関西チームと、赤いTシャツを着た関東チームがアップをしていた。
感動したのは女子野球の歴史を作ってきたレジェンドたちにお会いできたことだ。
関西では森井和美さん(オール兵庫、46歳)と則(のり)淳子さん(神戸プロシオン、46歳)。お2人とも91年に女子で初めてプロ野球(オリックスバファローズ)の入団テストを受けた伝説のプレーヤーで、特に森井さんは女子野球日本代表に8回も選ばれた名選手。その引き締まった体としなやかな動きから発せられるオーラは宝塚の男役さながらで、関西の皆さんは敬意をこめて彼女のことを「スター」と呼ぶ。
関東では鈴木慶子さん(町田スパークラーズ、45歳)、中山公江さん(バットマン、49歳)、有村さん(バットマン、50歳)、小野塚華子さん(町田スパークラーズ、42歳)の4人。鈴木さんは「シリーズ指導者たち」で紹介したようにアメリカの女子プロ野球リーグでプレーした初めての日本人で、今もプレイングマネージャーとして活躍している。
中山さんと有村さんは第1期、2期のチーム・エネルゲンのメンバーで、有村さんはコロラド・シルバーブレッツの入団テストを受けたこともあるチャレンジャーだ。小野塚さんも第1期チーム・エネルゲンのメンバーとしてフロリダの地を踏んでいる。
試合前に早速感想をうかがった。まず関東チームの監督を引き受けた中山さんから。
「3年ぐらい前から関西の山田さんが往年の選手たちといっしょにやりたいやりたいと言っていて、すごくうれしかった反面、体が動かなくなっているのでできるかなって思っていました(笑)。でもやっぱり来てよかったです。今日参加した人たちは現役を引退している人が多いんですけど、現役の人でも全盛期のポジションからは遠のいています。だから本来のポジションでやらせてあげたいと思って色々考えてきました」
最年長の有村さんは、
「25歳のときに女子野球を始めたので第1回の全国大会から出ています(当時は東京スターズ)。でもまさかこんな日が来るとは思ってもみませんでした。今日集まった人たちとは同じ時代の空気を吸って戦ってきたという思いがあるから、みんな元気で会えるっていうのがうれしいですね」
関東チームのキャプテンで、女子野球の歴史を鮮明に記憶している鈴木さんは、
「このメンバーを見るといろいろ思い出しますね。最初の全国大会(一般の部)って8チームでやったんですよ。オール兵庫と大阪ディアズ、旭川レディース、秋田こまち、町田スパークラーズ、バットマン、東京スターズ、スピリッツの8つ。関東以外の4チームはユースホステルに泊まって、私はその引率係をやりました」
と話してくれた。
関西チームの野崎志織監督(関西女子野球連盟理事長、43歳)が「挑戦状」を読み上げ、関東の中山監督に手渡すと、いよいよ試合開始。
シニアといってもバリバリの現役が何人もいることもあって、お世辞ではなく年齢を感じさせないプレーが続々。その一方で、ダッシュで本塁に突っ込んだ選手には「誰か酸素あげて酸素」と軽口が飛ぶシーンも。対抗心と思いやりがない交ぜになった不思議な雰囲気。
試合は、関西が森井選手の特大適時打で4-3と劇的なサヨナラ勝ちをおさめたが、最後においしいところをもっていくあたり、やっぱり「スター」だ。
長く続けているからこそ味わえた喜び
その夜、堺市のホテルで両者の懇親会が行われた。私も潜入。
ウィングスの小林さんはグラスを片手に頬を赤く染めながら言う。
「楽しかったですねえ。関東にも関西にも20年以上続いているチームがたくさんあって、そういうチームからみんな喜んで参加してくれました。今のウィングスは年齢の幅が広いので時々冗談が通じないんですけど(笑)、このメンバーだと大丈夫。同じ時代を共有してきた人たちと今またこうして戦える喜びを感じています」
ほかの参加者も言う。
「21歳で女子野球を始めて今年でちょうど20年です。当時はオール兵庫の全盛期だったんですけど、私は江戸川球場で裏方をやっていて、森井さん、則さんなどのお名前を黙々と鉄板のネームプレートに書いていました(笑)。そんな憧れの方々と試合ができたなんて夢のようです」(原田理枝さん、オールフラワーズ、41歳)
「みんなそれなりに足が遅くなったり肩が弱くなったりしていますけど、このメンツを見れば全盛期の自分にもどれるんですよね。それがうれしいです」(田中恵さん、コンプレックス、40歳)
「この年代になると自分のチームでは出場機会がめっきり減ったり、下の子を育てることでいっぱいいっぱいで、なかなか自分のプレーに集中できないんです。でもこのシニア大会なら純粋に仲間と野球を楽しめる。みんなに楽しんでもらえてよかったです」(主催者の野崎志織さん、モンスターズ)
「本当に楽しかったですね。皆さん大人なので企画だけすれば自然に形にしてくれたのでありがたかったです。シニア交流戦、来年もやりますよ!」(山田真希さん、モンスターズ)
若かりしころの試合のリベンジ、今だからこそかなう憧れの人との対戦、時代の共有感。シニア交流戦が生まれて女子野球はまた一つ豊かになった。この動きが硬式をふくめ、全国に広がることを願う。
全日本女子軟式野球連盟が発足して今年で25年たつが、この日参加した人すべてが女子野球の礎を作り、その歴史とともに歩んできたレジェンドなのだと思った。
46歳のトッププレーヤー
森井和美さん(オール兵庫・遊撃手)
「誰にも負けたくないし、負けてないと思ってます」
きっぱり言いきる森井さんは、昨年の全女連の全国大会決勝で3打数3安打1打点と大活躍し、オール兵庫の優勝に貢献したトッププレーヤーだ。とっくの昔に引退した選手が多いなか、本文でも紹介したように女子野球日本代表8回、軟式の全国大会24年連続出場(皆勤)、うち優勝8回、ジャパンカップ優勝4回と、昔も今も女子野球界のトップを走り続けている。
その原動力は「高いところ(トップ)を目指したい」という熱い思い。「そのためにはいろいろ努力をすることが必要」と、仕事のかたわら週2回のランニング、週1回のジム通い、インナーマッスルを鍛えるためのチューブトレーニングなどを欠かさない。森井さんの野球に対する意識の高さ、ストイックなまでに究極のプレーを追い求める姿勢は男子にも負けない。
「32歳で日本代表として硬式野球をやるようになってから(※)体作りにも気をつけるようになりました」
というように、年齢とともにつきやすくなる脂肪は、トレーニングと肉よりも魚と野菜中心の食生活を送ることでクリア。現在肥満指数19.5(標準よりちょい痩せ)。だから、
「体の衰えは感じないですね。ストレッチも意識してやっているから昔からケガは少なかったです。若い人はガーッと勢いでいけるけど、年齢を重ねればそうはいかない。でも力を入れるところは入れる、加減するところは加減するというメリハリをつけて野球ができるようになるから、努力さえ重ねればちゃんとチームを引っ張れるし、事実引っ張っているという自負はあります」
小学生のころから野球を始め、以来野球一筋。独身。正社員だと何かと自由がきかないので、お弁当屋さんでアルバイトしながら研鑽を積んでいる。
野球と結婚した女。それが森井さんだ。
※06年からは硬式クラブ「マドンナ松山」にも籍を置いている。
2人のレジェンド
左・鈴木慶子さん、右・森井和美さん
この日2イニング投げた鈴木さんが「本当はあなたをゆるい球で料理してやろうと思っていたんだけど、打順が回ってこなくて残念」と言うと、「そう、(鈴木さんの)ゆるい球が苦手で」と負けず嫌いな森井さんは悔しそう。
年齢が近く、付き合いも古い2人はいいコンビだ。