地方スポーツ団体に女子野球連盟が加盟
特集 ★2018年1月24日
女子野球の振興に威力 北海道、新潟、和歌山に続け
地方スポーツ団体に女子野球連盟が加盟
都道府県レベルの女子野球連盟の誕生
競技人口の拡大とともに、じわじわと増えているのが都道府県レベルの女子野球連盟だ。2018年1月現在、北海道、沖縄、新潟、和歌山、熊本の5つにそれがあり、地域に根ざした活動をしている。
なかでも画期的なのは、北海道、新潟、和歌山が、道と県のスポーツ団体に加盟していることだ。北海道は「北海道女子軟式野球連盟」(1998年創設)が00年に北海道野球協議会に、新潟では「新潟県女子野球連盟」(2016年12月創設)が発足と同時に新潟県野球協議会に、「和歌山県女子硬式野球連盟」(2017年4月創設)は創設と同時に県の体育協会に加盟している。
では都道府県の女子野球連盟ができて、都道府県のスポーツを統括する団体(以下、地方スポーツ団体)に加盟すると、女子野球を振興するうえでどんなメリットがあるのだろう。それがこの特集のテーマだ。その意味を正しく理解するために、これまで女子野球が置かれてきた立場をご説明したい。
そもそも女子野球は、大正時代に国と教育界から「女子の美徳に反する競技」というレッテルを貼られたため、女子の連盟は、軟式も硬式も一般(男子)の野球連盟に加盟できず、単なる任意団体に過ぎなかった。
しかし2014年、女子野球連盟のほとんどが(※)一般の野球連盟に加盟したことによって、女子も野球連盟と認められるようになった。だからこそ新潟と和歌山の女子野球連盟が地方スポーツ団体に加盟できたのだ。
良い意味での例外は北海道で、まだ任意団体時代の00年に道野球協議会に加盟したが、その経緯は後述する。
コロンブスの卵? 「一般の野球連盟と肩を並べる」という発想
今まで女子野球連盟は、軟式も硬式も「なんとかして一般の野球連盟(全日本軟式野球連盟や日本野球連盟など)に加盟したい(競技として認めてもらいたい)」といって動いてきた。
でもそれではいつまでたっても一般(男子)野球が上で、女子野球は下、という位置関係にしかならない。実際に一般の野球連盟に加盟できた今でさえ、現場レベルでは「グラウンド取り一つとっても男子野球が優先され、思うようにいかない」「女子の実情やニーズを生かせるように、県軟連の中に女子部を作ってほしいと言っても、取り合ってもらえない」という声をしばしば聞く。
でも地方スポーツ団体に入ったら?
- 県の高野連や軟式野球連盟などと肩を並べて会議の席に着き、彼らと情報を共有し、対等に話ができる。
- 女子野球が競技として認知されやすくなる。
- 女子野球の環境作りを都道府県レベルの問題として推進することができる。
- 活動にかかる費用を助成してもらえる場合がある。
- 高校や大学などに女子野球部を作ってほしいとき、個人やチームで交渉に行くより信用してもらえる。
いかがだろうか。まさにコロンブスの卵的発想。「こんな方法もあったのか」である。
地域に女子野球を浸透させるには、地方野球連盟上層部の理解を待つ「下からのアプローチ」より、最初から「彼らと同じ立ち位置で、独自の判断で活動する」ほうが絶対に効率的なのである。
すでに女子野球連盟のある県の皆さんは少しでも早く、まだない都府県の皆さんはぜひ連盟を作って、野球協議会などの地方スポーツ団体に加盟してほしい。
もちろん加盟することによって県全体のスポーツ振興にも責任を負うようになるが、女子野球界には有能な人材がたくさんいるので(管理人の10年にわたる取材から保証します)、きっと彼女、彼らは、しっかりと地域に貢献してくれるに違いない。
※2018年1月現在、全日本大学女子野球連盟(軟式)だけは独自の活動を目指して、全日本軟式野球連盟には加盟していない。
※2019年、宮崎県野球協議会設立に伴い、宮崎県女子野球連盟(硬式)が結成され、協議会に加盟。
発足 | 1998年(平成10年)10月 |
目的 | 北海道の女子軟式野球を振興する |
理事長 | 石川加奈子(いしかわかなこ) |
加盟スポーツ団体 | NPO法人 北海道野球協議会(2000年に加盟) |
連盟役員の 北海道野球協議会における役職 | 常任理事…石川加奈子、理事…鵜川美紀、 事務局次長…竹中揚子(協議会専従職員) |
女子野球の全国組織との関係 | 「全日本女子軟式野球連盟」に加盟 全女連は野球協議会加盟に問題なしという判断 |
傘下のチーム(7) | ●札幌シェールズ ●札幌ブレイク ●札幌プログレス ●JBC札幌女子 ●苫小牧ガイラルディア ●函館ドルフィンズ ●北海道グルービー |
理事長の石川加奈子さん(49歳)は、今から24年前の1994年、「札幌シェールズ」を立ち上げ、米女子野球リーグの入団テストにも挑戦した人だ。残念ながら合格はならなかったが、98年に北海道女子軟式野球連盟(以下、道女連)設立メンバーとして尽力し、99年には第1期日本代表(チームエネルゲン)のメンバーとして米国に遠征した。シェールズから竹中(旧姓黒田)揚子、金由起子、志村亜貴子といった日本代表選手が次々に生まれたのは、石川さんが彼女たちの背中を押したからだ。
その活動を知ってか、00年に北海道野球協議会が発足する際、発起人の柳俊之さん(現理事長で、現日本野球連盟副会長、全日本野球協会常務理事)から連絡があり、「男子、女子、子ども、還暦と分かれていても野球は一つなので、女子も入ってください」と言われて加盟した。いくら彼女たちが活躍していても、この時代、女子野球連盟はまだ任意団体にすぎなかったので、加盟はひとえに柳理事長の見識によるものと言っていい。
道野球協議会に加盟してすでに18年たった道女連は、加盟によってどんなメリットを受け、それをどう生かしているのか、石川さんにうかがった。
「実感しているのは、女子野球の存在を皆さんに知ってもらえたということです。加盟した当時は『そんな競技があるんだ』という感じでしたが、すぐに当たり前に受け入れてもらえましたから。
もう一つのメリットは全国レベルから地域レベルまで、野球の情報を迅速に得られること、そして協議会の横のつながりを生かして問題に対処できることです。
たとえば女子児童や女子中学生の全国大会ができるとき、道軟連は女子の実態を把握していなかったので、こちらからどこにどんな女子チームがあるのかお教えしたり、全国大会予選と道内の女子大会の日程が重ならないように、調整をお願いしました。
規模の大きな少年野球大会の閉会式などで、道女連の役員や女子中学生選手が、子どもたちに賞品を手渡すセレモニーもさせてもらっています。大きくなっても女子が野球を続けられる場があることを、知ってもらうためです。
中体連の先生から、道内の野球部に女子選手が150人もいるとうかがったときは、PRを兼ねて野球部連合を作り、道女連の女子大会に参加してもらいました。
監督は日本ハムファイターズの元選手で球団職員の、荒井修光(のぶあき)さんにお願いしました。ファイターズは2015年に野球協議会に加盟し、荒井さんは協議会に出向して、竹中と同じ事務局次長をなさっているからです。
こうしたつながりを生かして、ファイターズアカデミーのなかで女子野球教室もやっていただいています」
このほかグラウンドの調整会議に参加できたり、大会運営に長(た)けた他団体の人にノウハウを教わったり、グランドを融通し合ったりと、得られるメリットは計り知れないという。
そんな北海道で今進んでいるのが、野球協議会の中に女子部を作ろうという動きだ。発案者の石川さんは言う。
「女子硬式野球チームが2つになり、中学野球部、中学硬式リーグや高校野球部にも女子が増えている時代です。もっと女子選手を抱える団体が連携し、大局に立って女子野球の環境作りを進められないかと考えたのです。
現在、ソフトボール連盟をふくめ18団体中13団体が参加予定で、まもなく始動することになっています」
道女連の竹中副理事長も言う。
「軟式硬式、共に手を取り合って女子野球を広げていけたらという思いで、北海道は動いております」
もはや道女連幹部の意識は、軟式という枠を超えている。北海道の女子野球は彼女たちを中心に、新たな時代を迎えようとしている。
※画像提供/北海道女子軟式野球連盟
発足 | 2016年(平成28年)12月15日 |
目的 | 新潟県の軟式と硬式の女子野球を振興する |
理事長 | 頓所理加(とんしょりか) |
加盟スポーツ団体 | 新潟県野球協議会(2016年12月に加盟) |
女子野球の 全国組織との関係 | 「全日本女子軟式野球連盟」「全日本女子野球連盟」(硬式) には加盟せず、あくまでも新潟県の環境作りに特化 全女連は協議会加盟に問題なしという判断 全日本女子野球連盟とは協力団体という位置づけ |
傘下のチーム(6)と 所属組織 | <軟式>●NLライズ ●中越フェニックス ●県央BLジャイアンツ(全日本女子軟式野球連盟新潟支部) ●BBガールズ選抜(学童)(BBガールズ普及委員会) ●ヒロインズ(朝起き野球リーグに参加) <硬式>●開志学園高校女子硬式野球部(全国高等学校 女子硬式野球連盟) |
会長の頓所理加(とんしょりか)さん(42歳)は、08年にBBガールズ普及委員会を作って小学生の女子野球環境を作って以来、女子軟式野球クラブ「NLライズ」や開志学園高校女子硬式野球部などの創部に関わり(開志学園では14年4月から17年3月までコーチ)、朝起き野球チーム「ヒロインズ」を立ち上げるなど、新潟女子野球を一から作ってきた人だ。
当然のことながら軟式硬式両方に人脈があり、そのため新潟県女子野球連盟は、最初から軟式と硬式をふくんだ連盟としてスタートすることができた。
「2年前の2015年に、野球協議会のほうから『そろそろ入っておいで』と、やわらかい感じで打診があったのです。ちょうど県の大学野球連盟が加盟することになり、『せっかくだから女子野球もどうですか』ということでした。それで16年の春から各チームに『こんな話があるんだけど』と説明に歩きました。
話が動いたのは16年5月に新潟で女子野球日本代表の合宿が行われた時です。軟式をふくむ新潟の女子野球関係者や、野球協議会、市や県がサポートして大々的に行われたのですが、その時、『せっかくこれだけ女子野球が広まってきているのだから、新潟の女子野球を振興するために、そろそろみんなの進む方向を一つにしましょう』ということになったのです。そして12月に新潟県女子野球連盟を立ち上げ、野球協議会に加盟しました」
発足して約1年。17年は「県内の女子野球のイベントをお互いに支え合う」ことをテーマに、軟式の大会「悠久山女子軟式野球大会」への各チームの関わり方や、BBガールズ普及委員会が行っている女子学童野球の交流会やイベントの役割分担を決め、実行した。
「野球協議会に加盟したら、周りがそれを高く評価してくださっていることに驚きました。新潟では夏の甲子園予選の開会式で、野球のPR動画をオーロラビジョンに流すのですが、高野連からその動画に、『加盟団体の一つとしてご協力いただけますか?』というお誘いを受けました。
また中体連の軟式野球専門部の石川智男部長から、『良くなっていくために、連盟としてお互いに協力していきましょう』というお声がけをいただきました」
野球協議会のグラウンド調整会議にも出席しているため、グラウンドも格段に取りやすくなったとのこと。
硬式と軟式の連携については、まだどこの女子野球連盟も手探り状態なだけに、その両方を束ねる新潟の活動に注目したい。
※画像提供/新潟県女子野球連盟
発足 | 2017年(平成29年)4月1日 |
目的 | 和歌山県の女子硬式野球を振興する |
理事長 | 川保麻弥(かわほまや) |
加盟スポーツ団体 | (社)和歌山県体育協会(2017年4月に加盟) |
女子野球の全国組織との関係 | 「全日本女子野球連盟」(硬式)には加盟せず、 あくまでも和歌山県の環境作りに特化 全日本女子野球連盟の協力団体という位置づけ |
傘下のチーム(1) | ●和歌山ファイティングバーズNANA(関西女子硬式野球連盟の リーグ戦に参加。同連盟はまだ加盟制をとっていない) |
連盟発足のきっかけは、元女子野球日本代表選手であり女子プロ野球選手でもあった川保麻弥さん(33歳)が、女子硬式野球クラブ「和歌山ファイティングバーズNANA」の監督に就任することになったこと。
その活動がスムーズにいくように、和歌山県議会議員の谷口和樹さん(NANAの設立者でもある)が連盟の立ち上げと、体協への加盟に動いた。
注)和歌山県には野球協議会は存在しない。
川保さんは埼玉栄高校女子硬式野球部の出身で、部活動を終えた高3の秋(02年)、クラブチーム「侍」を立ち上げて女子硬式野球の環境作りに努力してきた。今よりもっと女子野球が認知されていなかった時代を知るだけに、体協に加盟する意味と、そのメリットを人一倍感じている。
「連盟の理事たちと相談したのですが、和歌山県で女子硬式野球が認められるためには、まず県のスポーツ界に女子硬式野球のポジションを作ることが重要だと考えました。つまり男子野球の中に女子野球がありますというのではなくて、一つの独立した競技として、他の競技と肩を並べられるようにしようと思ったのです。そのために和歌山県の体協に加盟申請しました」
女子硬式野球連盟を加盟させるか否かについて、総会では色々な意見が出たというが、最終的に川保さんの人柄と野球のキャリアが評価されて承認されたという。
「発足してまだ1年もたっていないので、体協の会議には1回しか出ていませんが、皆さん、『女子硬式野球? すごいね』というリアクションでした。はい、とても好意的に受け止めていただいています」
加盟チームがまだNANAしかないので、NANAの活動=連盟の活動になってしまっているが、
「2017年は田辺市で私が『一日消防署長』を務めさせていただきましたし、橋本市から女子野球教室を頼まれたりしました。女子硬式野球連盟ができて県の体協に加盟したからこそ信用され、こうした依頼が来たのだと思います」
また、体協に加盟したメリットは他にもあるという。
「県の意向が私たちにも伝わってくることです。
たとえば今県は人口減少に歯止めをかけるために、和歌山県移住計画を進めていますが、私たちもそれに協力しようということでNPO法人『SPICE GIRL』を立ち上げ、硬式野球をやりたい県外の女子選手を誘致する活動を始めました。
選手たちの住まいや仕事などを県と連携して手配するため、連盟ではなくNPO法人という形をとりましたが、法人スタッフは和歌山県女子硬式野球連盟の役員とほぼ同じです。
それからもう一つ進めているのが、『ワールドマスターズゲームズ2021関西』への出場です。これは4年に一度開催される国際大会で、関西大会では32競技55種目が参加予定です。その大会に、県の体協から『参加する団体はないですか?』という連絡があったので、手を挙げました。硬式野球部門に30歳以上の女子選手を集めて参加する予定です。
参加を決めた理由は女子硬式野球のPRになるからです。和歌山県には女子の野球があるということすら知らない人がたくさんいます。そういう方々に『まず知っていただく』ことが、私たち連盟の重要課題なのです。
これから選手集めや具体的なPR方法をふくめ、時間をかけて準備していきますが、大会でもぜひ勝ち上がって、女子硬式野球の魅力を知っていただきたいと思っています」
和歌山県女子硬式野球連盟は、県と連携しながら着実に足場を固めているようだ。今後は県内の女子軟式野球チームとも交流し、一緒に和歌山県の女子野球の振興に努めたいとのことだった。
※画像提供/和歌山県女子硬式野球連盟