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女子の規定part1

特集 2020年6月22日

 もっと楽しく安全に。女子野球の規定を考える 

part1 女子野球も選手ファーストへ

2019年夏の全国大会で、投手5人を投入して優勝した作新学院高校女子硬式野球部(写真提供/同部)

※この記事は2019年12月29日に「ベースボール・クリニック ON LINE」(ベースボール・マガジン社)に掲載されたものです。

女子野球でも見られる投球過多

 金足農業高校、吉田輝星投手の力投に沸いた2018年夏の甲子園大会。その一方で881球という球数(秋田県大会をふくめると1517球)に、改めて勝利至上主義を見直し、選手を野球障害から守ろうという機運が一気に盛り上がった。

 同年12月には新潟県高野連が19年4月から1日の球数を100球に制限する「球数制限」の導入を発表し(日本高野連の時期尚早という判断で延期、のち撤回)、19年2月には全日本軟式野球連盟が小学生の球数の上限を70球にすることを決定。10月にはポニーリーグが年齢別の投球数制限などを発表し、日本高野連も11月末、1週間の球数制限500球(これ以上投げると怪我の危険が高まるという数字)、3連投の禁止、大会日程の緩和などを正式に決めた。
 まさに2019年は、18歳未満の選手たちを野球障害から守ろうと、関係する連盟が大きく動いた年だった。

 しかし、その動きから取り残されてしまったのが女子野球界だ。たとえば全軟連の球数制限70球は、なぜか女子児童の全国大会には導入されていないし、中学硬式野球リーグでも女子大会の球数制限は検討されていない。軟式と硬式の女子野球連盟が運営する大会にも球数制限はなく、ワールドカップも男子(18歳以下)には球数制限があるのに、女子にはない。

 だが選手を野球障害から守るという観点からいえば、やはり女子にも球数制限などの規定を導入し、勝利至上主義に歯止めをかける必要がある。なぜなら特定の選手に頼った采配は、男子に限ったことではないからだ。

 一例を挙げてみよう。下の表は高校の全国大会で優勝、準優勝、ベスト4の成績をおさめた「エースと心中型チーム」のエースたちの投球状況だ。女子は全員、高校女子硬式野球界を代表する優れた選手たちゆえに、監督たちは彼女たちの腕に優勝の夢を託し、初戦から決勝(または準決勝)まで全試合に登板させ、ほぼ完投させている。

エースと心中型チームの投球状況 

 その球数(総数)は4~7日間で316から438。この数は果たして女子選手にとって適正なのだろうか。
 仮に男子の指針を使って女子の球数の上限を計算してみると、女子野球は7イニング制なので、男子の500球の9分の7の389球。すると選手CDEGがオーバー。しかし389球に達さなかった選手も、5日間4試合、4日間4試合といった過密スケジュールのため、2連投、3連投しており、性差を加味するまでもなく、投球過多に陥っていると推測される。

 2017年に全日本野球協会と日本整形外科学会などが発表した中学野球選手(軟式硬式11,134人)の実態調査(注1)によると、1週間に350球以上全力投球した選手の67.4%が痛みを経験しているといい、高校生とはいえ、彼女たちの体が心配だ。

 球数制限は小規模チームに不利なことは承知しているが、競技人口の増加に伴い、男子の指導経験しかない監督・コーチが増えている現状を考えると、わかりやすい指針である球数制限は、女子野球にこそ必要なのではないだろうか。あるいは球数制限に抵抗があるなら、投球回数制限、連投禁止など、何かしらの規定を設けて、女子を野球障害から守る意識を徹底すべきだと考える。

 また選手の体を守るためには、大会日数を増やすことも大切だ。炎天下の大会では特に、休養日を設けたり、ダブルヘッダーにならないように予備日を増やすことが望まれる。もしそれが難しければ、予選をして参加チーム数を絞るなど、運営を根本的に見直す勇気も必要だろう。

子どもから大人まで。女子野球選手の怪我と競技能力の実態

 そもそも今回の男子の球数は、どのようにして決まったのだろう。日本高野連や全日本軟式野球連盟は、日本スポーツ臨床医学会や日本整形外科学会がもつ、球数調査や怪我に関するデータを根拠にしている。
 またアメリカに本部をもつポニーリーグは、MLBが2014年に制定した年齢別(2歳刻み)の球数の指針「ピッチスマート」を基にしたという。
「ただその数字はアメリカ人のものです。だから慶友整形外科病院の古島弘三医師に協力を仰ぎ、先生と我々がもつ、日本の子どもたちの怪我のデータと照らし合わせ、アメリカ人より1段階若い年齢の球数を参考にして数を決めました」(那須勇元専務理事)。

 女子も医学的データや実態調査に基づいて規定を作ればいいのだが、残念ながら参考にできるデータが非常に少ない。大正時代に文部省や地方自治体が「女子の美徳に反する過激な競技」というレッテルを女子野球に貼ったために、100年近くもの間、女子選手の研究が進まなかったからだ。世界的に見ても女子野球の研究は少なく、それが女子選手を野球障害から守る動きを遅らせている。

 それでも近年、女子野球の現場から様々な情報が発信されるようになった。
 たとえば愛知医療学院短期大学女子軟式野球部の元監督、鳥居昭久教授は、2010年に軟式の大学女子野球選手にアンケート調査を行い、女子の怪我は肩関節の障害が最も多く、続いて下肢障害(足関節、膝関節)、肘関節の順だったと報告している(注2)。男子野球選手のデータと比較すると(円グラフ)、女子は男子より肘関節や腰の故障が少ない代わりに、下肢障害が多いのが目を引く。

男女別・障害発生部位

 また愛知医科大学病院リハビリテーション部の尾関圭子氏らは、14~16年に愛知県代表の女子学童野球選手の関節可動域の調査を行い、女子は男子より上肢の関節可動域の左右差が大きく、下肢は左右差がないこと、またそれにより女子児童の野球動作は上肢に依存している可能性を指摘している(注3)。
 
 女子プロ野球選手の怪我については、リーグ創設当初から監督、統括ヘッドコーチなどを務めた松村豊司氏が、「肩の脱臼、膝の関節がはずれる、前十字靭帯損傷といった怪我が多かった」と語っている。
 その女子プロ野球選手の研究は、彼女たちのメディカルチェックを担当した理学療法士などによって、いくつかの報告がなされている(注4)。

筆者が2017年に行った女子軟式野球選手の運動能力調査の様子。社会人のスイングスピードの測定。

 女子野球選手の基本的競技能力の研究には、筆者が2017年に行った全国の女子軟式野球選手(中学生、高校生、大学生、社会人)を対象にした調査がある(注5)。
 50m走、ベースランニング、球速、遠投、スイングスピードの5種目の記録をとって、競技能力の年齢による変化などを調べ、合わせて女子中学生と男子中学生の記録の比較も行った。中学3年時の男女差はベースランニング13.4%、投球速度22.8%、遠投距離30.7%、スイングスピード13.6%で女子が低く、また走力と投力、打力の男女差は一律ではないことがわかった。

 このように女子野球選手の怪我や競技能力の特性は複雑で、決して男子の○%というような単純計算で語れるものではない。前段では女子の球数の上限を、イニング数の違いから389球と仮定したが、実際はそんなに単純なものではないだろう。

 女子野球選手が怪我なく、また長く野球を楽しめるように、女子野球に関わるすべての野球連盟は早急に医学界と手を結び、女子選手の実態調査を行ってほしい。また単に規制するだけでなく、継続的に勉強会を開いて、得られた情報や女子ならではの指導法などを、指導者たちに周知することも大切だ。

 男子野球界がようやく選手の安全優先に舵を切った今、女子野球界も遅れてはならない。

注1)「平成28年度中学野球(軟式・硬式)実態調査 調査報告」全日本野球協会ほか、平成29年
注2)(参考資料)「女子野球における障害特性と指導の為の考察 : 全日本大学女子野球選手権大会の参加チームへの調査とA短大野球チームの活動記録から」鳥居昭久、愛知医療学院短期大学紀要5,2014
注3)「学童女子野球選手における関節可動域の特性-第2報-」尾関圭子ほか、第52回理学療法学術大会抄録集 
注4)「女子プロ野球選手の可動域特性-男子大学生との比較」平本真知子ほか、日本臨床医学会誌21,2013
注5)「女子軟式野球選手の基本的競技能力調査報告」飯沼素子、鳥居昭久、スポーツパフォーマンス研究11、2019  論文はこちら →  

女子野球の規定を考える「part2 女子野球にも柵越えホームランを」

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