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第2回NPBガールズトーナメント

コラム 2014年10月5日

女子プロ野球OGも参戦。第2回NPBガールズトーナメント

優勝した徳島県選抜

 8月11~16日、35都道府県36チームが参加して行われた「NPBガールズトーナメント2014」(第2回大会)は、期待以上にレベルが上がり、見ごたえ充分だった。宮城や青森、熊本のように別の女子大会で優勝したチームが新たに参戦したこともあるが、1回戦で敗退したチームの中にも良いチームがあったり、優れた選手がいたからだ。

2人の元女子プロ野球選手たちが参戦

 熱戦の結果は後述するが、今大会の注目点は元女子プロ野球選手が監督やコーチとして参加したこと。宮崎ガールズの黒木弥生監督、オール奈良の松本育代コーチのお2人だ。

黒木弥生さん

 黒木さんは鹿児島県出水市出身。神村学園女子硬式野球部で捕手として活躍後、10~12年に京都アストドリームスや大阪ブレイビーハニーズでプレー。引退後は南九州短期大学(宮崎市)で女子硬式野球部の監督を務めている。

 その黒木さんが宮崎ガールズを率いることになった理由は簡単だ。そもそも宮崎ガールズは13年に宮崎市の野球連盟が作り、南九州短期大学女子硬式野球部が指導するチーム。つまり黒木さんはふだんから宮崎ガールズの子どもたちを指導していたために、全国大会でも監督を務めることになったわけだ。

 宮崎ガールズの選手たちはメチャメチャ明るくて、黒木さんにまとわりついたりしゃべりかけたり。みんな監督が大好きなんだということがひと目でわかった。

宮崎ガールズのみなさん

「野球って9割が苦しくて1割が楽しいものだと思うんです。でもその楽しさがあるからがんばれる。そのことがプロに行ってよくわかったので、小学生のうちはあまり叱らずに伸び伸びやらせています。
 もちろん一生懸命がんばることの大切さも教えています。厳しくしない分、思ったことをストレートに言ってくる子もいるので、あの子は一生懸命やったから試合に出られるんだよとか、思い切りやってエラーしたら怒らないんだよとか、色々話すようにしています。
 全国大会ですか? 自分が子どものころは考えられなかったんで、今の子どもたちは幸せだと思います」
 そう言う黒木さんも、とても幸せそうなのだった。

松本育代さん

 
 松本さんは奈良県橿原市出身で、奈良文化女子短大付属高校卒業後、働きながら女子硬式クラブ「大阪BLESS」でプレー。女子プロ野球のトライアウトに合格後は兵庫スイングスマイリーズ、京都アストドリームス、ウエストフローラでプレーした(10~13年)。
 全国大会に出場することになったのは、その出身地が橿原市であるからだ。実はオール奈良は県軟連橿原支部の人たちが中心になって立ち上げたチーム。そのため女性指導者を探すとき、支部のみなさんの頭にはすぐ松本さんの顔が浮かんだという。早速打診すると、松本さんは快諾。

 プロ退団後は県内でトレーナーをしているというご本人いわく、
「プロを辞めたのは野球がイヤになったわけではなく(笑)、自分の新しい可能性をみつけるためだったので、お話をいただいたときはすぐに何かお手伝いしたいなと思いました。私も少年野球から始めたし、プロ時代は地元のみなさんに応援していただいたので。

オール奈良のみなさん

 小学生の全国大会があるのはその時初めて知りました。うれしかったですね。私が子どものころは野球を続ける環境がほとんどなくて中学になるとやめてしまう人が多かったので、これからは中学生の環境作りのお手伝いも、やれる範囲でやっていきたいと思っています」

 実はお2人のほかにも萩原麻子さん(10~12年、兵庫スイングスマイリーズ→京都アストドリームス。現在は日本女子プロ野球機構の京都本社職員)が京都ガールズのコーチとして参加予定だったが、手続きの関係で実現しなかった。

 また三重県出身の大倉三佳さん(10~13年、京都アストドリームス→イーストアストライア)が三重高虎ガールズの練習に、静岡県出身の坪内瞳さん(10~13年、兵庫スイングスマイリーズ→ノースレイア監督。現在は日大国際関係学部女子硬式野球部監督)が静岡イーストエンジェルスの練習試合に駆けつけ、子どもたちを喜ばせた。
 みなさん、自分が子どもだったころの恵まれない女子野球環境を知っているだけに、代表チームの誕生を喜び、その活動にひと肌脱いでくれたのである。

元女子プロ野球選手の指導者登録をめぐる混乱

 とはいえ、元女子プロ野球選手たちが指導者登録(アマチュア復帰)するまでには、ちょっとした混乱があった。

説明

 元プロ野球選手がアマチュア組織でプレーまたは指導をするためには、その組織が定める方法に従ってアマチュア復帰の申請をする必要がある。日本野球連盟(JABA)しかり全日本軟式野球連盟しかり。
 
 ところが全軟連には(おそらく日本野球連盟にも)元女子プロ野球選手の復帰規定がなかったのだ。そのため今回複数の連盟が、「元女子プロ野球選手は代表チームの指導者になれるのか」「どうやったら登録できるのか」と全軟連に問い合わせたとき、即答できなかったり書類の提出を求めたりと、回答にブレが生じたようなのだ。

 平成23年12月に全軟連が定めた元プロのアマチュア復帰のための規定を見てみよう(骨子)。
①12球団に所属した選手のみ、全軟連に対しアマチュア復帰の申請が必要である(数種類の書類を提出)。最終的な経歴が独立リーグでも、一度でも12球団に所属したことがある人は同様の手続きが必要である。また引退から満1年を経過しないと申請できない。
②独立リーグにしか所属したことがない人は、全軟連への復帰申請は必要ない。各支部で審査・判断し、アマチュア登録する。

 つまりここで定めているのは「元12球団の選手」か「元独立リーグの選手」のみなのだ。
 では女子プロ野球とはプロ野球界においてどんな位置づけにあるのだろう。実は明確な定義はなく、独立リーグの一つとする見方もあれば、単独のプロリーグとする見方もある。確かなのは12球団ではないということだけだ。

説明

 さて全軟連はどう判断したか。県軟連の質問にこたえるために何度か協議を重ねた末、下した結論は、元女子プロ野球選手がアマチュア復帰する場合、全軟連に申請する(書類を提出する)必要はないというものだった。つまり独立リーグと同じ扱いということである。

 ゆえに今後元女子プロ野球選手をアマチュアチームの指導者にしようというときは、上記の②に従って地元支部にその旨を連絡し、必要な書類があればそれを支部に提出すればOKということになったのである。

 みなさんもよくご存じのように、今野球界は元プロの力を活用する方向に動いている。たとえば長い間様々な制約があった「元12球団選手による学生野球の指導」も、今年から数日間の研修を受ければ可能になった。そう思えば女性指導者が圧倒的に不足している野球界にあって、元女子プロ野球選手の力を利用しない手はない。
 今年はプロ1期生ばかりだったが、今後は2期生以降も参加するようになるに違いない。

 松本さんは言う。
「そのうちに子どもたちの指導に携わる元女子プロ野球選手が増えて、そのチームが全国大会で試合できたら面白いですね」
 なるほど。今年の状況を見ていると、早ければ来年にも実現しそうな気がしてくる。

お姉ちゃん、妹を熱烈応援

山口のお姉さん選手 北海道の小中学生たち こちらは神奈川の小学生たち

 今大会で目についたのが、お姉ちゃんや妹を応援しに来た子どもたちの姿だ。メガホンを持って応援席に陣取り、「高めは捨てろ」「バッター勝負、バッター勝負」なんて、大人顔負けの檄(げき)を飛ばす男子小中学生がたくさんいたし、姉のチームが練習するのを見ている小さな妹や、姉にしがみついて甘える幼い弟の姿も見かけた。

 女子選手が野球を始めた理由でダントツに多いのが「お兄ちゃんが野球をしていて楽しそうだったから」というものだが、あと5年もしたら、きっと「お姉ちゃんが野球をやっていて楽しそうだったから」という子がたくさん出てくるに違いない。

レベルが上がった一方で、心配な出来事も

 最後に試合の総括を。
 冒頭にも書いたとおり、今年はあっちのグラウンドでもこっちのグラウンドでも、いいチーム、いい選手を見ることができた。
「今年はレベルが高いねえ」
 というのが知り合いの指導者たち全員の感想だった。

愛知の大河内投手

 たとえば球威、制球力、フィールディングなど、すべての面で優れた投手が増えたように思う。そういう選手たちは身体能力が高いからか打撃でも活躍し、何度も見せ場を作っていた。また監督の指示がなくても的確に状況を判断し、セーフティバントを決めてみせた選手もいる。さらに内野手なら動きはいいし声は出ているし併殺や挟殺も当たり前、という選手が増加。外野手では、ダイレクト送球でランナーをホームで刺した左翼手がいてびっくりした。

 ようやく全国大会という名にふさわしいレベルに近づきつつあり、これは女子のレベルが上がったのか、優れた選手が出てきてくれるようになったのか。いずれにせよ来年はまだ見ぬ優れた選手たちが大会をさらに盛り上げてくれることを期待したい。

徳島の楠本投手

 試合の結果から見ると、昨年1回戦で敗退した静岡が準優勝し、三重がベスト8に進出するなど、いくつものリベンジ劇があったことが印象に残る。徳島の優勝もその一つで、昨年準決勝で長短打15本を浴びて完敗した相手、愛知を、今年は逆に準決勝で破って決勝に進出した。徳島のエース、楠本とも子選手は、「去年愛知に負けたのが悔しくて、愛知を倒すために1年間練習してきました」と胸の内を語ってくれた。

 気になったのは、大会中にケガをした選手の話をよく聞いたことだ。複数の主力選手がケガをして途中で失速してしまったチームがあったし、肘や肩を痛めて投げられなくなった投手たち、足を疲労骨折した選手の話を聞いた。私が把握しているものはすべて接触プレーとは無縁のものばかりだ。

徳島vs静岡の決勝戦

 考えられる原因は、選抜チームが多いために指導者が選手の普段の状況を把握できていなかったこと、また試合に出たいがために選手が軽い痛みなら我慢してしまったことだ。

 さらに得点差によるコールドがないことや、時間制限(その時間を超えて新しいイニングに入らない)が2時間半というのも原因ではないかと思う。

 たとえば平成24年から大人の全国大会では7回以降7点差がついた場合はコールドが成立するようになっているが、小学生の全国大会にコールドがないのはなぜだろう。また時間制限2時間半、特別延長になるとさらにプラス2イニングというのは長すぎはしないか。まして炎天下である。

 参考までに以下に各種女子軟式大会のコールドと時間制限の規定をご紹介しよう。

大会名対象コールド時間制限
NPBガールズ
トーナメント
小学生なし2時間30分
東京都知事杯小学生4回終了時点で10点差
5回以降7点差
1時間45分
九州大会小中学生5回以降7点差1時間30分
関東女子交流大会小学生5回以降7点差2時間
岡山大会小学生3回以降10点差1日目は1時間20分
2日目以降は1時間30分
関東女子中学大会中学生5回以降7点差2時間
全日本女子
学生野球選手権
中高生4回終了時点で10点差
5回以降7点差
1、2回戦は1時間50分
3回戦以降は2時間

      
 今回、「まだやってるよ」とギャラリーが気の毒そうに言うのを聞いたが、本当にそのとおりだと思う。

 このサイトでは時々女子のスポーツ障害に関する記事を取り上げているが、全軟連にはぜひ子ども、特に女子のスポーツ障害の観点からコールドと時間制限の規定の見直しをしていただきたいと思う。

 それでは以下に大会の写真をご紹介しよう。

説明

品川レディース(東京)の双子の姉妹(6年生)、志賀春香さん(左)と美咲さん(右)。1歳のときから父とボール遊びをしていたというお2人は、仲良しだけれどあまり野球の話はしないとか。春香さんはジャイアンツの坂本選手、美咲さんは中日の浅尾選手のファン

説明

イーハトーブ岩手の山埼美桜さん(6年)と兄の魁人さん(中3)。中学野球部の活動を終えて妹の応援に駆けつけた魁人さんは、誰よりも大きな声を出して応援歌を歌うなど素晴らしい応援振りだった。1回戦で惜敗した妹に「本当は勝ってほしかったけど頑張ったと思います」とやさしいひと言。「女子の野球には男子とは違う雰囲気と一生懸命さがあると思います」という感想も聞かせてくれた

説明

釧路アクアガールズはスターティングオーダーの発表に合わせて選手がハイタッチしながら整列。工藤監督(右端)がそのつど手を差し伸べて選手をあたたかく迎え入れていたのが好印象だった。「全国大会は女子のトップレベルの野球がわかって大変勉強になりました。克服すべき課題も見つかったので、来年に生かしたいと思います」と工藤監督

説明

外野フェンスの代わりにカラーコーンを置く特別ルール(もしボールがダイレクトにカラーコーンを越えたらホームラン、間接的に越えた場合はボールを追わずにカラーコーンの上のボールを取って試合を続ける)はすっかり定着。延々とボールを追うことがなくなったので試合が引き締まると好評だ

佐賀スターガールズのみなさん 走攻守そろった佐賀のエース 神奈川は3回戦に進出

静岡の投手。静岡は投手を4人そろえてきた 江戸川エンジェルズ(東京)の捕手 大阪のエースと遊撃手。残念ながら山梨に昨年のリベンジならず

たくさんの人が応援に来た山口Saikyoガールズ。Tシャツもキマッテます 山口のエース 昨年準優勝の千葉は今年は3位。打撃のチームでした

剛速球で大阪打線を封じた山梨の投手。山梨は今年もベスト8入り 熊本の強肩捕手は打撃でも魅せた 沖縄は2回戦で江戸川(東京)に特別延長で惜敗。実力は拮抗していた

広島vs江戸川(1回戦) 広島のエース。今大会ナンバーワン左腕 茨城vs静岡

京都ガールズのみなさん 青森の捕手。青森は2戦目で特別延長の末、千葉に破れた 遊撃手を務めた青森の主将 

三重のエースは快進撃の立役者の一人 三重の一塁手。京都戦 栃木は3回戦で静岡に破れ、ベスト8

三重の捕手 神奈川の応援Tシャツは目立ちました 元気いっぱいの入場行進が好印象だった福岡

岩手の選手の帽子に書かれたメッセージ 全員野球で臨んだ岩手 宮崎のエース

投手も務めた愛媛の強肩捕手。岐阜戦 IBA-boysの全国大会で5連覇中の宮城は初戦で愛知に惜敗 宮城の主将

決勝戦前の徳島の山田監督。徳島は昨年1回戦で静岡に勝利している 決勝戦前の静岡の飯田監督。転勤した前監督に代わってチームを率い、準優勝に導いた 昨年も参加した5人。彼女たちが中心になってチームをまとめたという

※決勝戦の様子は → こちら


※大会の取材許可は得ていますが、一人ひとりに掲載許可をとることはできなかったので、もし削除を希望する方がいたら「情報大募集」のページからご連絡ください。 

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