第3部
特集 ★2012年10月9日
大学野球がくれたもの
第3部 大学野球から得たもの、そして未来 アンケートの回答から
今回、大学女子野球の記事を書くにあたり、OG約30人にアンケートをお願いし、27人から回答をいただいた(選択式ではなく、自由回答形式)。それをもとに大学野球を通して選手が得たものは何か、そして大学軟式野球の課題、発展のための提案などを紹介する。
大学野球から得たもの
気持ちを一つにして団結するチームワークの大切さ、仲間のため、または仲間がいるから自分ががんばれるという強い気持ち。 (大久保菜緒子さん、03年 日本体育大学卒、「千葉マリンスターズ」選手)
卒業試合となる3回生の全国大会で、忘れられない面白い試合ができた。乱打戦となり、逆転しては逆転されのシーソーゲームとなったが、最終回にホームランを打たれてサヨナラ負けした。が、憧れていた『逆転のPL』のような試合ができたことに感動した。そのとき絶対勝ちたいと皆の気持ちが一つになり、負けて悔し涙を流す感覚などを味わうことができ、自分がこの大学に進学したのは野球に出会う運命だったからであり、野球をやめることはできないと感じた。 (中尾彩乃さん、02年 帝塚山学院大学卒、「ターセルズ」代表兼主将、関西女子野球連盟監事)
自分が自分らしくなれた。諦めない心と、本気になれば何でもできるという自信を得た。これが『広島レッズ』を立ち上げる原動力になった。 (二井理江さん、94年 上智大学卒、「広島レッズ」コーチ、全日本女子軟式野球連盟山陽支部担当)
上辺だけじゃなく、仲間と本気で向き合うこと、一つの目標に全力でぶつかること、色々な方向に目を向けて心を配ることの大切さ。 (小橋由依さん、11年卒 上智大学卒、職場の軟式野球チーム選手)
チームを立ち上げ、すべてのポジションを経験し、時には監督業務もこなしたおかげで、野球という競技を様々な角度から知ることができました。また没頭し、無我夢中になる楽しさと心地よさ、9人そろえることの難しさを実感し、一人ひとりの存在価値なども知ることができました。 (宮田まり子さん、00年 立正大学卒、「パラドックス」選手、関東大学女子軟式野球連盟理事)
大切な仲間と一緒に目標に向かっていったという経験です。東女体は学生が主体となってチーム運営をしていくので、チームがより良く活動するためにはどうすればいいか、みんなで考え、行動し、そのなかで色々な経験を積むことができました。大学で学んだことは現在でもチーム運営に生かしています。 (城間智子さん、06年 東京女子体育大学卒、「鳥光」「ティーダバル」選手)
大学野球で得たものは「知識」と「仲間」です。知識においては様々な環境でプレーをしてきた選手と意見交換をすることで、色々な野球観を知ることができました。そしてそこから信頼やライバル心が芽生え、仲間としての強い絆ができました。 (前田慶子さん、11年 日本体育大学卒、「暴れん坊ガールズ」コーチ)
同じ目標(日本一)に向かって、同じ喜び、同じ苦しみを味わってきた仲間たち。一生の宝です。 (森高真代さん、05年 日本体育大学女子短期大学卒、「千葉マリンスターズ」選手)
大学野球から得たものは仲間です。同じ目標に向かって試合ができたこと、最後まで諦めずに戦ったこと、ベンチ、控え選手をふくめた全員で野球ができたこと。仲間は私の一生の財産になりました。大学野球部で充実した時間が過ごせたことで、今度は私が大会をサポートする側に回りたいという思いもあって、故郷魚津にもどり、『魚津市実行委員会』の一翼を担う今の職場に就職しました。毎年多くのOGが応援に来られ、その際には声をかけてくれます。当時はチームが違いましたが、現在は一緒に女子野球を盛り上げてくれる大切な仲間となっています。 (西浦麻衣子さん、07年 日本女子体育大学卒、魚津市体育協会主事)
一緒の夢に向かって努力することができる最高の仲間を得ました。野球があったから今の自分がいて、仲間に支えてもらったから色々なことにがんばれるんだと思います。 (林祐希さん、08年 金城学院大学卒、「愛知サンライズ」選手)
どんなにつらいことでも、諦めずに継続すれば結果が見えてくるということ、仲間の大切さを知りました。 (小澤江里さん、11年 日本女子体育大学卒、同校野球部監督)
高校までの野球はグラウンドでも何でも、人に用意してもらってやっていたもの。大学になるとそれがなくなり、今まで支えてくれた人のありがたさがわかります。がんばって勉強して入った分、バカみたいに野球に打ち込んでも許される4年間。キラキラしたその時間の中に、大学生でないと経験できないものがあると思いました。この時間があったからこそ、今でも野球から離れられません。 (陽奥千恵さん、96年 上智大学卒、関西女子野球ジュニアリーグ実行委員)
野球を通してたくさんの人と知り合えたことが財産です。たとえば顧問の中澤興起先生。うちの野球部は中澤先生に誘われて私が作ったんですが、先生からは気配りやマナーなど、社会に出たときに必要なことをたくさん教わりました。大学の先生方にも色々応援していただきました。魚津では友達がいっぱいできました。 (岡本由起子さん、01年 千葉商科大学卒、福島県立若松商業高校女子ソフトボール部監督)
一人でものを考える力。今の自分には何が足りなくてどうすれば上達するか、一人で分析し実行する力を得たと思います。 (青井佐映子さん、11年 上智大学卒、「横浜DeNAベイスターズガールズ」スタッフ)
卒業後10年以上も学生野球という場所で踏ん張っていられるのは、『野球が好き』『野球部が好き』という気持ちとともに、一緒にたくさんのことを乗り越えてきた仲間と、毎年送り出している後輩たちがいるからだと思っています。卒業したOGたちが練習に来てくれたり、集まってご飯を食べているときに、気づくと『あのときの試合はこうだった』『あの子のプレーはすごかった』など、自然と野球をしていた頃の話になっているのを見ると、なんともいえない幸せな気持ちになり、この子たちがいつでももどってこられる跡見のグラウンドという場所を守っていきたいという気持ちになります。
野球のおかげで何ものにもかえがたい楽しい人生を送っています。そして30歳をすぎた今でも、日々自分自身を成長させてくれるもの、それが野球です。微力ながら私にできることは、歴史ある軟式野球部(創部34年になります)を存続させていくことかなと感じています。 (須藤智子さん、02年 跡見学園女子大学卒、同校野球部監督、関東大学女子軟式野球連盟理事)
大学軟式野球の課題・集計結果
具体的な改善案まで書いていただいた場合は、それも紹介。(回答者27人)
1 人口増加、チーム数の増加 20人
2 PR 15人
●まず大学に女子軟式野球部があることを知ってもらう。そのために
様々なマスメディアを使って宣伝する。
●特に魚津の全国大会をアピールすることが大切。
3 選手のレベルアップ 11人
●軟式クラブチームで活躍する元日本代表選手の力を借りる(大学
野球に限らず女子軟式野球界全体にいえること)。
●グラウンドサイズを正規のものにする。普通の野球のセオリーが
通用するように。
●小学生から社会人までの一貫した指導体制を作る。
4 グラウンドなどの環境整備 8人
5 指導者の強化 7人
●指導者の数を増やす。
●指導者のレベルを上げる。
●全国大会などで指導者育成の場を設ける。
●女性指導者を増やす(男性だと女性蔑視をする場合があるので)。
6 高校→大学→社会人野球へのスムーズな移行 5人
●交流戦を多くして、どこにどんなチームがあるのか知ってもらう。
●中高生チームと交流試合をして大学野球があることを知ってもら
う。週末はグラウンドがなかなか取れないので、中高生チームの
グラウンドを使わせていただけるのは一石二鳥。
●大学4年生(短大は2年生)向けに、全国にある女子軟式野球チーム
の紹介をする。
●大学卒業から社会人野球に移行するための窓口を作る。
7 女子野球界全体の組織作り 3人
●難しいかもしれないけど硬式と軟式が一緒の組織を作り、協力して
女子野球を発展させていく。
8 軟式と硬式の住み分け 1人
8 「マイナー競技だから」と他と交流しないチームがよく見られること 1人
●女子野球以外のチームとも積極的に交流する。PRになり、レベル
アップや人脈作り、競技人口の増加にもつながる。
岐路に立つ大学軟式女子野球
OGたちは皆、大学軟式人口が減ってきていることを心配している。なかには「野球が好きでやる気のある子はどんどん硬式に流れていきます。その分、野球に興味のない子を入部させようとしても、グラウンドがない、部員が少なくてまともな練習ができないなどの理由で野球の魅力を充分に伝えられず、チームが衰退していきます」という意見も。
では大学軟式野球の未来は本当に暗いのだろうか。それを考えるために、女子野球界の現状を見てみよう。
確実にいえるのは、女子野球人口は今後ますます増えていくということだ。それは08年12月から12年7月までの約4年間で女子野球チームが急増していることからわかる(図3、4。飯沼調べ。人口ではないので注意)。
軟式では学童チームが爆発的に増えており、来年以降、全日本軟式野球連盟が小中学生の育成に力を入れていくので、小中学生のチームや人口はさらに増えると予想される。高校軟式チームが今後増えていくかは不透明で、増加のためには関係者の努力が必要だろう。
硬式では中高生チームの伸びがめざましく、高校チームもこれからさらに増えることがわかっている。
この状況から予想されるのが大学女子硬式野球部の増加だ。現在の勢いで若い世代の硬式人口が増えていったら、今ある7大学(尚美学園大学、平成国際大学、至学館大学、大阪体育大学、南九州短期大学、成美大学、東京農業大学)だけでは絶対に受け皿が足りない。しかも受け皿不足は目前に迫っている。
だから大学軟式野球は遠からず大学硬式野球というライバルをもつようになることを覚悟しなくてはならない。
その一方で考えられるのは、大学で軟式野球をやりたいという人の増加だ。これだけ小中学生時代に野球を経験した人が増えているのだから、たとえ高校時代に野球をやる環境がなくても、きっと大学で軟式野球部の門をたたく人は増えるだろう。
また高校時代に硬式野球で活躍した選手が、将来の職業を考えて、あえて軟式野球部のある大学に行ってプレーするケースも多い。(余談ながら時々硬式野球部にはうまい人が行って、軟式野球部にはそうでない人が行くと思っている人がいるが、それは大きな間違いだ)
プロ野球ができたといっても女子が野球を仕事にできる時代にはまだなっていない。だからこそ人は将来の目標と大学の実績などをはかりにかけながら進学先を選んでいく。そこには硬式をやってきたから硬式野球部のある大学、あるいはその逆というような単純な図式はない。ゆえに大学軟式野球の未来を悲観する必要は現時点ではないと思うのだ。
問題は増えてきた野球経験者たちをどう大学軟式野球部に取り込むかだ。PR、レベルアップ、環境整備(これはなかなか難しいが)など、OGの皆さんの意見が参考になるだろう。
そしてさらに大切なのが「継続」すること。その要になるのが「自分たちの力だ」と多くのOGたちは言う。
「大学野球が継続してきたのは、OGが熱心に関わって『競技野球』を貫いてきたからだと思います。一時期盛り上がって、あっと言う間に廃部になった大学をいくつも見てきました。学生任せだと続かないところを、OGが関係することで持続できるのだと思います」
(末永周子さん、01年 上智大学卒、「ドリームウィングス」選手、関東大学女子軟式野球連盟理事)
ほとんど何もかも自分たちで運営する大学野球では、経験者である先輩たちのサポートがとても大切なのだ。
幸いにも長い歴史をもつ大学軟式野球は、後輩思いのOGをたくさん生み出してきた。全日本大学女子野球連盟は彼女たちの力を借りて大学軟式野球を盛り上げることを考えてはいかがだろうか。彼女たちは社会人として女子野球に携わっていることも多く、きっと大学はもちろん、社会人野球とのパイプ役になるなど、女子野球界全体のために尽くしてくれるだろう。
今回「大学野球がくれたもの」というテーマで取材を始めたが、終わった今、むしろ大学軟式野球こそ、OGという素晴らしい財産を得たのだと実感している。
それでは最後にOGたちからの熱いメッセージを紹介して締めくくりとしよう。
何より続けること。現役の目標となる魚津の全国大会、ジャパンカップ(クラブチームとの頂上決戦)は絶対に絶やしちゃいけないと思います。そのために現役はもちろん、引退した私たちがどこまでサポートするのかが大切。そして周りに認めてもらうためにもっとアピールしていかなくてはいけないと思います。 (小橋由依さん、11年 上智大学卒、職場の軟式野球チーム選手)
一般的に大学に学生主体の女子野球部が設立&存続しうるのは、軟式でないと難しい。なぜなら本来スポーツは万人に門戸が開かれるべきもので、それが可能なのが軟式だからだ。だからこそ野球を志すすべての女子大生に参加のチャンスがある魚津の全国大会こそ最も重要。そして本当に女子野球の振興を考えるならば、大学軟式野球にこそ経済的、物質的支援をつぎ込んでほしい。 (八木久仁子さん、93年 上智大学卒、「大阪ワイルドキャッツ」「武庫川女子大学野球同好会」監督)
一時期、チーム数も選手数も減少し、高校生と一緒にリーグ戦をやったらどうかという意見が出たこともありましたが、「女子野球」とひとくくりにするのではなく、あえて「大学野球の4年間」という面白さ、難しさを残すことは必要だと思います。
「学生野球」という、勝つことが義務でも仕事でもない、しかしながら遊びではない真剣勝負を4年間経験した選手は、その後色々なかたちで女子野球を支えてくれると思います。 (須藤智子さん、02年 跡見学園女子大学卒、同校野球部監督、関東大学女子軟式野球連盟理事)
大学野球がくれたもの
第1部 魚津には青春が溢れている
第2部 女子野球の底辺を広げていったOGたちの物語