女子野球情報サイト 

LS

特集 2013年5月28日

 カギ握る中学硬式リーグ ~女子野球発展のために~

第2部 リトルシニア「LSレディース」がんばる

LSレディース花組と星組による紅白戦(リトルシニア関東連盟・開幕式後)

結成後3年弱で実現した明治神宮球場での紅白戦

開幕式は毎年明治神宮球場で行われる

 2013年3月10日、中学硬式リーグ史上初めて女子チームが明治神宮球場で試合を行った。この幸運なチームはリトルシニア関東連盟の「LSレディース」。

 試合は同連盟の開幕式後に行われた紅白戦で、LSレディース3年生による花組と、1、2年生による星組が美しい人工芝の球場で日ごろの練習の成果を披露した。 
 
 ちなみに関東連盟の開幕式は毎年神宮球場で行われ、女子も所属チームの一員として神宮の土を踏んではいるが、女子チームとしてプレーするのは初めてのことだ。

「ふつう開幕式後の模範試合は2試合目になるとお客さんが帰っちゃうんですけど、この日は第3試合の紅白戦にも人がいっぱい残っていて驚きました」と連盟役員。よく見ると女子選手が所属するチームの人たちのようで、男子選手たちが野太い声で懸命に声援を送っていた。男子が女子に声援を送る、そんな時代になったのである。
 

3年生チーム「花組」。後輩の星組に5-0で勝利 応援する男子選手たち

 リトルニシア関東連盟が初の女子チームを作ることになった遠因は、09年8月31日の「都市対抗野球」準決勝前に行われた「ボーイズ東日本ブロック選抜vsリトルシニア関東連盟選抜」の試合である。ボーイズリーグにとってこの試合が女子野球環境を作る一つのきっかけになったのと同様、リトルシニアにとってもこの試合のもつ意味は大きかった。

 この日、2-3でボーイズ選抜に負けたはずのリトルシニア選抜の女子選手たちは、不思議と表情が明るかった。エキシビションマッチという気楽さもあったと思うが、女子だけで試合をする楽しさを味わったからかもしれない。
 裏方として試合をサポートしていた関東連盟の北村寛評議員は、「上手な子が多いし野球が好きな子も多いなと感じました。またもっと試合に出場できる機会を作ってやりたいとも感じました」と言う。

チーム存続を決めた、女子大会での快進撃

 それから9カ月後の2010年5月、東関東支部の大友博事務局長のもとに千葉県・市原シニアの加藤和昭監督から連絡が入った。支部の女子選手の数を教えてほしいというのだ。もし人数がそろえば8月に新設される「第1回 全国女子硬式野球ユース選手権大会」(関東女子硬式野球連盟主催)に参加したいという。早速数えてみると、東関東支部に12人いることがわかった。
「せっかく数がそろったし、全国大会に出られる機会なんて滅多にないからということで参加を決め、6月26日に船橋シニア(千葉県)のグラウンドで顔合わせをしました」(当時の登録名は東関東リトルシニアレディース)

集まった東関東支部の12人の選手たち。写真提供/LSレディース

 集まったのは3年生5人、2年生1人、1年生6人。チーム別では竜ヶ崎4、土浦2、水戸東1、八千代1、香取1、船橋1、浦安1、木更津1で、竜ヶ崎シニアの4人の中には、小学校時代、女子学童チーム「茨城クイーン」でいくつもの女子大会を制覇した選手たちがいた。

 大友さんはそれまで女子野球について全く知らなかったというが、メンバーの一人、現在蒲田女子高校のエースとして活躍する花ヶ崎衣利選手(浦安シニア)を見て、「女の子でもこんなに速い球を投げる子がいるのか」と驚いたという。

 試合当日は皆期待と不安で表情がこわばっていたというが、なんと初戦の相手、駒沢学園女子中学を4-0で下し、続くALL SAKAE(埼玉栄高校)を延長8回の末3-2で破って準決勝に進出。対戦したメタルテック香港には4-5で惜敗したが、結成わずか2カ月の中学生チームが高校生相手に大健闘したことに会場から惜しみない拍手が送られた。メタルテック香港はこのあと駒沢学園女子高校を破って優勝しただけに、そのチーム相手にここまでやれたことは選手たちの大きな自信になり、引率した大友さんたちスタッフにも感動を与えた。

11年春のヴィーナスリーグ・Uリーグ。右・LSレディース、左・駒沢学園女子中学

 そんなこともあって、初めはU18大会にだけ参加のつもりだった大友さんたちは、関東には中学生の硬式大会「ヴィーナスリーグ・Uリーグ」があると知ってチームの継続を決定。翌年の春季リーグから参加するようになった。
 毎年毎年関東連盟の各支部に声をかけ、女子選手を集め、練習や大会参加の段取りをするのは大変だが、「選手も保護者も、みんな喜んでやっている。どんどんやらせてあげよう」という思いが大友さんたちスタッフを動かしている。
 
 チームは13年春までに1~3期生22人を送り出し、特に3期生14人は全員が女子硬式野球部のある高校に進学した。
  

男子と女子、両方とプレーできる環境が魅力

 LSレディースのメンバーは皆、女子野球がやれるからリトルシニアに入ったのだろうか。先の紅白戦の前に聞いてみると、入団前に女子チームがあることを知っていた人は少なく、一番多かったのが「硬式野球がやりたかったから」という答え。入ったあと連盟から女子チームがあると知らされ、女子の活動を始めたという。でも、
「男子とは違う楽しみがあると思って(女子の活動が)楽しみだった」
「女子同士は会話のキャッチボールができて楽しい」
 と言う。それじゃあ一年中女子だけでやりたくない? と聞くと、多くの選手から、
「男子と一緒がいい。男子の野球はスピードやパワーがあるから楽しい」
 という返事が返ってきた。どうやら男子女子、両方とプレーできる環境に魅力を感じているようだ。

紅白戦に出場した1、2年生チーム「星組」

 保護者にも聞いてみた。
「中学野球部には女子が入れなかったので、野球をやるにはシニアに入るしかありませんでした。LSレディースに入ったのは支部から声をかけていただいたからです。本人も女子の野球もいいねと言って喜んでいました」
 という声もあれば、
「少年野球チームの先輩がLSレディースに入っていたので、シニアに女子チームがあることは知っていました。女子野球をやらせたいと思っていたので、もしLSレディースがなかったらシニアには入らなかったと思います」
 という声もあり、家庭によって理由はまちまちだったことがわかる。

大友代表と一問一答。チーム作りの軌跡

大友博代表

 LSレディースとはどんなチームで、どのようにして体制を作り、維持しているのか、大友さんにうかがった。

――メンバーは全員東関東支部の選手ですか? (リトルシニア関東連盟には東東京支部、西東京支部、南関東支部、北関東支部、東関東支部の5支部がある)
大友 当初はユース選手権大会に出場することを目的に東関東支部(茨城、千葉)の選手だけでスタートしましたが、今は全ての支部から選手が参加するようになりました。13年度は25人が在籍し(5月上旬現在)、一番遠くから来ているのは南関東支部の焼津リトルシニア(静岡県)の選手です。

――どんふうに活動しているのですか?
大友 メンバーは通常は本来の所属チームで男子と一緒に練習をしています。参加している大会はヴィーナスリーグ・Uリーグ、夏のユース選手権大会の2つの女子大会で、大会が始まる前には合同練習を行い、試合には原則として現地集合、現地解散で参加しています。どちらの大会も主に埼玉県で開催されているので、遠くの選手は会場近くの選手の家に泊めてもらうなどの工夫をしているようです。
 女子大会が終わったあとでも月1回は合同練習を行い、年に1、2回は合宿もして交流に努めていますが、本来の所属チームの試合やいろいろな行事があったりで、全員が揃うことは稀ですね。それでも夏休みの試合のない時期には互いに行き来しているようで、これはこれでまた別の楽しみがあるようです。

――選手はどうやって集めているのですか?
大友 今年から各支部に連絡窓口を作り、この窓口を通じて女子チームがあるということを選手に伝えてもらい、希望者を募っています。

開幕式後に行われた保護者に対する説明会

 
 また関東連盟のなかで女子選手がこのような活動を行っていることを知らない父母が多くいると思われますので、開幕式では毎年保護者を対象にした説明会を開いていきたいと考えてます。女子チームについて説明してくださいと言われれば、チラシを持ってどこへでも行きます。

 世の中の人にLSレディースの活躍を知っていただくために、ホームページやフェイスブックで積極的に情報発信もしています。中学野球というのは3年たったら選手が入れ替わりますから、ずっとPRしていかなくてはいけないと思っています。

――連盟の皆さんは最初から女子の活動に理解を示してくれましたか?
大友 いろいろな考えの人がいますから、全ての人が理解してくださったわけではありません。しかしまず連盟の林理事長が理解を示してくださったこと、また規約を作るなどしっかりとした体制を作り、その活動報告を地道に上に上げたことで、次第に皆さんが認めてくださるようになりました。

――今回の紅白戦はその証でしょうか?
大友 私の中には、開幕式のあと神宮球場で紅白戦を開くことによって初めて皆さんに女子の活動を認めていただいたことになる、という強い思いがあったので、昨秋から林理事長や関係者の皆さんにお願いをしてきました。神宮でプレーできるなんて夢のような話ですし、最高のPRになるでしょう。ですから実現して本当にうれしかったですね。

――ヴィーナスリーグやユース選手権大会に出場するためには、関東女子硬式野球連盟に登録しなくてはなりません。それはリトルシニアとの二重登録を意味しますが、すぐに許可は下りたのですか?
大友 初めて参加したユース選手権大会は全国大会のため、特に他団体に加入登録する必要がなかったのですが、翌年から参加したヴィーナスリーグは関東女子硬式野球連盟に登録する必要がありました。そこでこの大会に出場するときに連盟の判断を仰いだのですが、「本連盟に登録された選手は、連盟、支部ブロックへの届け出なく、登録外のチームとの試合を禁止する」「他の少年硬式野球チームとの二重登録を禁止する」という連盟の規則に違反しているため、一部の方々から二重登録に対する批判があり、当初は東関東支部長判断で参加させていただいておりました。

参加するには登録が必要なヴィーナスリーグ

 その後、連盟での打ち合わせのつど女子の活動をPRし続け、昨年11月、林理事長に「女子はなかなか試合に出られないため野球をやめてしまう選手が多いこと、モチベーションアップのために女子大会に参加させてほしいこと、ついては二重登録を正式に許可していただきたいこと」を文書にして提出し、裁可を仰ぎました。合わせて女子大会のパンフレットやLSレディースの規約も提出して、女子野球の現状や自分たちの活動への理解も求めました。その結果、13年度からは連盟として正式に女子の二重登録を認めてくださいました。神宮での紅白戦は、そうした背景があって初めて実現したことです。

――経済面ではどのような工夫をなさっていますか?
大友 初めはユニフォームなし、ヘルメットなし、ボールなしの、ないない尽くしの状態でした。所属チームから練習ボールを2個ずつ持って来てもらい、練習を始めたのも懐かしいですね。
 
 また、試合に出るためにはユニフォームが必要ですが、選手が所属する各ブロックにお金を出していただいてなんとかユニフォームの上だけ作りました(下は白の練習ズボン)。

個人の方が作ってくれたヘルメット。写真提供/LSレディース

 ヘルメットは選手の所属チームの物をお借りしていましたが、ヴィーナスリーグに参加する時にLSレディース設立に尽力された役員の方が個人的にお金を出して作ってくださいました。

 保護者の皆さんにはリトルシニアの所属チームの会費とは別にLSレディースの活動費をご負担いただいていましたが、大会会場への往復の交通費だけでも大変です。そこで今年度から女子の活動が正式に認められたために、保護者の負担を少しでも軽くするべくLSレディースの年会費、スポーツ保険費、関東女子硬式野球連盟への選手登録費は女子選手が所属する各チームに出していただくようにしています。

――リトルシニアでほかに女子チームを作る動きはありますか?
大友 10年の第1回ユース選手権大会で選手があまりにも楽しそうだったので、関東連盟の他の支部にも女子チームを作って支部対抗戦をしませんか? と連盟に提案したことがあります。残念ながら継続審議になってしまって未だに実現していませんが、いずれはと思い、今後体制作りをしていきたいと考えています。
 また関西連盟にも同様なチームを作ってくださいとお願いしていますので、近い将来、関西で勝ち上がった1チームと関東の各支部の予選で勝ち上がったチームでリトルシニアの東西対抗戦を行ったり、全国の支部チームを集めて全国大会が開ければうれしいですね。

――今後の抱負は?
大友 選手を集めてチームを作るのはそう難しいことではありません。しかし継続するのはとても難しいことです。情熱だけでは続きませんから、子どもたちをバックアップする人材の手配や育成、体制作りをよりいっそう進めたいと思っています。
 また関東女子硬式野球連盟のユース選手権大会に東西のリトルシニア代表チームが参加することも夢見ています。現在のところ中高生の全国大会はこれしかないので、リトルシニアの女子チームにとって良い腕試しになるのではないでしょうか。

※LSレディースFaceBook ⇒ https://www.facebook.com/LsLadies
※LSレディースHomePage ⇒ http://www.a-and-k.jp/LSLadies/index.htm

リトルシニア関東連盟・林清一理事長に聞く

女子の全国大会&ジャイアンツカップ開催を目指して

画像の説明

 初めて関東連盟の中に女子チームを作りたいという話を聞いたとき、諸手を挙げて賛成しました。
 

 本来女子の力はすごいと思うんですよ。スキージャンプの高梨沙羅選手、サッカーのなでしこ、レスリングの吉田沙保里選手など、どのスポーツでも女子が活躍している。
 ところが野球では女子が活躍する場がないんです。我々がお預かりしている中学生たちを見ても、どんなにすごい女子でも体力差で男子に負けるようになり、試合にも出られなくなる。しかし男女を問わず選手の可能性を伸ばすのが指導者の務めだと考えたとき、連盟の中に女子チームを作り、選手を育成するのは当然のことだと思いました。

 今関東連盟にはLSレディースしかありませんが、もっともっと数が増えてほしいですね。数が増えたら関東連盟の中で女子リーグを作って切磋琢磨できるようにしてあげたい。連盟として女子選手をバックアップしてあげたいのです。

 リトルシニアの他の連盟も、我々関東がやっていると知れば女子チームを作ってくれるでしょう。そうしたら全国大会が開けます。またヤングリーグやボーイズリーグにも女子チームがありますから、女子だけのジャイアンツカップが開けるかもしれません。そうなったら面白いですね。女子野球はもっと盛んになるでしょう。

 小学校で野球をやめてしまうのはもったいない。我々が女の子たちが野球を続けられる舞台を作ってあげたいと思っています。

powered by HAIK 7.3.7
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional