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コラム 2012年8月4日

女子野球の「困った」 ~組織編~

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軟式硬式、2つの連盟を束ねる上部連盟X

 女子野球の「困った」~女子野球人口編~ でご紹介したように、競技人口すら把握できない女子野球界の現状は、すなわち女子野球をしっかり統括する組織がないことを意味している。基本的な実態すらつかめない以上、子どもから大人までの一貫した選手育成計画は立てられないし、環境作りも進まないだろう。だからこそ今、心ある人々がきちんとした組織を作ろうと動き始めている。特に歴史が新しく、急激に競技人口が増えている硬式の動きが活発だ。
 

 そこに部外者の私が口を挟むのは僭越だとは思うが、できればこうなってほしいという夢物語がある…。

                    ☆

 20○○年、「日本女子野球連盟X(エックス)」広報部の電話が鳴った。
「もしもし、F新聞のものですが、今年の女子野球人口を教えていただけますか?」
「わかりました、軟式○万人、硬式○万人です」
「今年は女子野球イヤーと位置づけて女子野球人口の拡大を図るとうかがいましたが、どんな計画をおもちなのか、お話をうかがいたいのですが」
「それでは企画部のYに代わります」

 連盟Xは、中学生から大人までの軟式チームを束ねる「女子軟式野球連盟N」と、同じく中学生から大人までを束ねる「女子硬式野球連盟K」の上に立つ組織で、年に数回、連盟Nと連盟Kの担当者を招いて会議を開き、現場の意見を吸い上げつつ、より良い環境作りのための指針作りや問題解決を行っていた。

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 会議の場で協議される問題は多岐にわたる。たとえば
●女子野球人口の60%以上を占める小学生をいかに他の競技に逃さずに野球に導き、育てるか
●女子チームが少ない地域にどうやってチームを増やすか
●小中高大と、学校を卒業するごとにスムーズに次のステップ(学校野球部やクラブチーム)に移行させる方法は
●将来教員となる人材を輩出するという意味から、大学野球部を対象にした野球教室やスポーツ障害の勉強会を開けないか。またその費用を連盟が負担できないか
 
 また、
●軟式から硬式、硬式から軟式へ転向する選手の連盟登録手続きの簡略化
●上記転向に際して生じる危険性が高い、スポーツ障害についての周知方法
●女性に特化した野球選手の体作りやスポーツ障害対策の指針作り
●トレーナーや審判の育成
●セクハラ被害から選手を守るための勉強会の実施
●底辺拡大などのためのキャンペーンの立案やスポンサー集め
 などについても話し合われる。

 連盟内部で解決できないことは、自治体や大学の研究者、海外の連盟などと協力して解決に当たることも多い。

 女子軟式野球連盟Nは全日本軟式野球連盟にも所属し、地区代表チームは国体などにも出場している。また連盟Xが全軟連の傘下に入ったことによって全軟連と連盟Xの共催で各県選抜チームによる全国大会(学童と中学生)も開催されるようになっている。数が少ない高校軟式チームを増やすために、連盟の人たちが自治体や学校に出向いて頭を下げることもある。女子野球の認知度が上がったために全国の大学に女子野球の研究者が生まれ、また女子軟式野球部も増加。大学の全国大会は益々盛況になっている。

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 日本主導で女子軟式野球のアジア選手権(ボールはローバウンズボールという弾まないゴムボールを使用)が企画されており、実現の暁には女子硬式野球連盟Kに頼んでプロ野球選手やコーチに日本代表チームを指導してもらう予定だ。

 女子硬式野球連盟Kはどの年齢層も選手が増えたため、軟式のように中学、高校、大学、成人、シニアの区分で大会を開いている。チームが全国に点在していたころには大変だったチーム間の意思の疎通も、今ではスムーズに行われている。また企業チームやプロ野球チームの数も増え、リーグ戦にはたくさんの客がやってくる。
 女子野球が成熟した日本は、世界のリーダー国として連盟K内に国際部を設け、連盟Xと協力しながら女子硬式野球の海外普及とレベルアップに努めている。外国の子どもたちが日本の高校に野球留学することも当たり前になった。女子野球の認知度を高め、数々の経済効果を得るために、女子野球ワールドカップを毎回日本で開催するよう、連盟Xを通してIBAFに働きかけている。昔から変わらない大きな問題は硬式用のグラウンドの確保で、休部した企業チームのグラウンドや使っていない大学の運動場を使わせてくれるよう、連盟とチームの担当者がタッグを組んで関係各所を回っている。

 よく晴れた日のことだった。
「今年はちょっと面白いことをやってみませんか」
 連盟Kの役員が連盟Nの役員に声をかけた。
K「小学生向けの野球のイベントって、いつも硬球だったらこんな弾み方、軟球だったらこんな弾み方といった球の性質の違いや、捕球の仕方の違いを見せることが多いでしょう」
N「ええ、そういうデモンストレーションを通して野球の種類や特徴を理解してもらうという」
K「でもそれだけだとつまらないんじゃないかな。子どもたちは自分の体を動かしたいわけでしょう。だからもっと子どもたちが楽しめるイベントができないかと思って」
N「なるほど。たとえばベースランニングとかスイングスピードの記録会も一緒にやってみるというのはどうですか?」
K「へえ、面白そう。成績上位者には賞品が出るというのはどう?」
N「それいいですね。でもどこからお金を引っ張ってきます? 会場ももっと広いところが必要になるし、スピードガンなどのマシンも借りてこなくちゃいけないでしょう」

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K「スピードガンは高校や中学硬式リーグのチームに借りられるか交渉してみます。あとはやっぱり連盟Xからの補助金を増やしてもらうしかないな」
N「そうね。あとは地道に地元企業を回ってスポンサーを探しましょう」

 2カ月後、A市で開かれた連盟Kと連盟N共催の野球イベントには100人もの小学生が集まり、野球の面白さを実感する一日を過ごした。連盟Nの尽力で中体連の後援を、連盟Kの尽力で地元中学硬式チームの協力を取り付けることができたため、少年野球から中学野球への移行もスムーズに行われた。

                    ☆

 さて、これは全部私が作った夢物語だ。しかしこれは今まで私が見聞きしてきた女子野球の課題や女子野球関係者の「こうしてほしい」「こんなふうにできたらいいな」という意見をもとに作っている。簡単にいえば軟式と硬式、それぞれの連盟の確立と、2つを統括する上部組織の新設、そしてそれらが協力して女子野球を発展させる物語だ。

 女子選手と話をすると、具体的に何をどうやったらいいかはわからないが、軟式と硬式を一緒にした組織を作ることはできないか、と言う人がかなりいる。
 男子野球の世界では軟式硬式の間にある意識の壁は今さらどうにもならないし、プロとアマの間にある壁もまだまだ高い。しかし女子野球は男子野球とは違う土俵で育ってきたので、こうした壁とは無縁だ。硬式の選手は軟式が環境を作ってきてくれたから今の自分たちがあることを知っているし、軟式の選手も硬式ががんばっているから女子野球の認知度が上がってきたことを知っている。だからこそ女子は女子の世界、つまり女子野球関係者みんなが仲良くし、一緒に環境作りをする世界が作れるし、作りたいという希望をたくさんの人たちがもっているのだと思う。

 ではどんなふうに協力体制を作るのか。具体的な方法はまだわからない。しかし少しでも参考になればと思って文中に軟式の日本代表チームを硬式のプロ野球選手が指導する話や野球イベントを共催する話を入れてみた。これは団体同士の仲が良好な日本テニス協会(硬式)と日本ソフトテニス連盟(軟式)のやり方を参考にしたものだ。

 軟式硬式、もちろんKボールもふくめ、女子野球界が解決しなければならない問題は山積している。ぜひ皆さんで力を合わせ、男子野球とは違った、世界に誇れる女子野球界を築いていただきたい。そして広い視野をもち、実行力と協調性をあわせもつ女性リーダーたちの登場も待ち望んでいる。

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