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宗像専務理事

特集 2014年3月20日
 全日本軟式野球連盟・宗像豊巳専務理事にインタビュー

連盟として女性の体力、特性に合った女子野球環境を作ります

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女子軟式野球界の悲願だった全日本軟式野球連盟への加盟が平成26年1月1日、実現した。これによって今後の女子軟式野球界はどう変わるのか、全軟連を率いる宗像専務理事に展望をうかがった。

加盟によって全女連はどう変わるのか

宗像専務理事

――女子クラブチームを統括する全日本女子軟式野球連盟の加盟がやっと実現しました。
宗像 全日本軟式野球連盟(以下、全軟連)というのは昭和21年に出来上がって今年で68年目、間もなく70年という大きな節目を迎えるのですが、そのうち一度、昭和50年代に当時の先人たちが女子野球にかなり力を入れた時がありました。しかし我々も女子野球について意識が遅れていたというか、女子野球を全国的に広げるのはなかなか難しくて、当時の女子野球連盟の加盟も女子野球の促進もそのままになってしまったのです。ですから全軟連が実施している大会には女子の大会が全然ないというのが現状です。

 しかし全日本女子軟式野球連盟(以下、全女連)が当連盟に加盟してくださったことで女子も代表権を持ち、今年2月に開かれた評議委員会には川越宗重会長が評議委員として出席なさいました。これを一つのきっかけとして今後さらに女子野球環境を整えていきたいと思っています。

――全女連が加盟したということは各地の軟式野球連盟のみなさんはご存知なのでしょうか。
宗像 まず加盟を決議した15人の理事の方々が把握しておられますし、追々地域の理事長さん、会長さんに説明してご理解を賜るということになろうかと思います。また今後女子の全国大会の開催について協議する際に、改めて理事会、その下の評議委員会を通じて全国のみなさんに周知されると思います。
 でも昨年NPBガールズトーナメントに29支部(都道府県)が参加したことからわかるように、女子野球は全国にだいぶ浸透してきたのではないでしょうか。

――加盟することで全女連は何が変わるのでしょうか。
宗像 今までと全然変わりません。全女連の組織運営に全軟連の人間が関わっていくということは百パーセントありませんし、大会運営も今までどおりやっていただきます。全軟連がああしろこうしろということはまずないと思っていただいてけっこうです。

――では全女連が加盟するメリットは何でしょうか。
宗像 たとえば運営資金とか大会運営のあり方、大会役員など、何か援助してほしいことがあったらご協力申し上げますよと言っています。今後川越会長から要請があれば協議してできる範囲で協力していこうと考えています。そのへんは加盟団体に入っていただいたという大きなメリットでもありますから。
 またもっと大きなメリットは、既存の連盟と女子の連盟が同じレベルで議論できる体制ができ、女子の視点が取り入れられるようになったことです。今まではそれがなかったですから大きな成果だと思います。

毎年8月に行われている全女連の全国大会

――国体に女子野球の部を作ってほしいという声があるのですが、その可能性はどうでしょうか。
宗像 国体を主催する日本体育協会と文部科学省が出した21世紀の方針は、ジュニア育成に力を入れていきましょうということと、国体はなるべく簡素化しましょうということです。つまり国体に新しい種目は作らず、なるべく縮小するという方向です。
 現在、当連盟の国体の枠は32チームで526人なのですが、日体協はそれ以上人数を増やすことはダメだと言っている。そういう状況ですからそこに新たに女子の部を作ることはできません。ただ526人の中でやれるのだったらいかようにもなります。たとえば32チームを分けて16チームを女子の部にして、16チームは一般の部というふうにするなど。もし女子野球が全国的に盛んになって男子と差がなくなったら、そういうかたちで国体に女子野球の部ができる可能性はあります。

――全軟連傘下の団体に二重登録はできますか?
宗像 当連盟の傘下には47都道府県の連盟、全日本大学軟式野球協会、中体連、還暦軟式野球連盟など約52団体ありますが、たとえば全女連のチームすべてが別の団体にそっくり吸収合併されるようなことはよほどのことがない限りできません。
 ですがそれぞれの団体のトップが協議して合意すれば、ある団体のチームが別の団体の大会に登録して試合に出ることは可能です。たとえば県軟連が中学生の大会を作ったら、全女連や中体連に加盟している中学生チームも参加していいですよというような話し合いはできると思います。

――大会が少ない女子野球の世界では、中学生の軟式チームがKボールや硬式の大会に出ることもあるのですが、軟式以外の連盟との二重登録は可能ですか?
宗像 所属する団体が我々とは異なるので、二重登録は許可していません。

全日本軟式野球連盟の使命と小学生の全国大会創設の経緯

――全女連加盟の背景は?
宗像 全日本軟式野球連盟が何を目的に68年間やってきたかというと、国民的体力増進とスポーツによる人材育成なんです。そのミッションはこれからも変わりませんが、やはり男だけでなくて女の人のことも考えていかなくてはいけないというのが連盟として一つありました。

 もう一つは段々と少子化になって子どもさんの数が減っていますね。たとえば今当連盟に加盟しているチームは全国に5万3000ぐらいあるのですが、その数が毎年2000チームぐらいずつ減少しているのです。これは野球界だけでなく、スポーツ界全体の問題なんですが、それでは我々は何をしなければいけないかというと、一人でも多くの方に野球というものを理解していただくと。そしてそのためにはやはり女性の方々、特にお母さんの力が大きいのではないかと思ったのです。

13年に新設されたNPBガールズトーナメント

 お父さんと息子だけでなく、お母さんと娘が庭先でキャッチボールをするようになり、お母さんを中心に家庭の中で野球の話ができるようになれば、家族のコミュニケーションが深まって、さらに多くの人に野球をやっていただけるのではないかと。

 そのために今のうちから女性が野球をやれる環境を作ってあげなくてはいけない。小学生、中高生、大学、一般という一つの流れも段々作っていきたいという思いが連盟としてあります。野球の底辺拡大の根本はそのへんにあると。

――生活の中に野球を浸透させるという意味で女子の野球に着目したわけですね?
宗像 そのとおりです。そして野球の底辺拡大についてここ2、3年、NPB(日本野球機構。プロ12球団を統括する組織)とうちのほうで色々と話をさせてもらいました。
 プロ野球は東日本大震災以来、観客動員数が段々減って、子どもの観戦者数も目に見えて少なくなってしまった。東京ドームをいっぱいにするのも大変だと。
 そういうなかで我々は「やるスポーツ」、NPBは「観るスポーツ」という立場で一緒に中長期的なビジョンをもって議論を重ねてきました。そうしたところ、NPBも女子の育成が大切だというお考えになって、じゃ女子の小学生の大会をやろうと。それで昨年度、小学生の全国大会「NPBガールズトーナメント」を一緒に開いたのです。

中学から高校へ。進めたい軟式野球の環境作り

――NPBガールズトーナメントを作ってくださったおかげで女子野球という意識が地域の連盟に浸透し始め、全国的に中学生チームも増えています。14年3月末には関東軟式野球連盟連合会(関東の軟式野球連盟を統括する組織)が女子中学生の関東大会を開くことになりましたね。
宗像 NPBガールズトーナメントが終わった後、直接子どもたちに「中学生になっても全国大会はあるんですか?」と言われたり、保護者の方からも「中学に行っても野球をやらせたい。全国大会でなくてもいいから支部大会などありませんか」という問い合わせがかなりありました。それだけ中学野球の環境整備が求められているのだと思います。

全女連の中高生の全国大会。中学生チームの登録数は年々増えている

 そうしたなか、関東ブロックのほうで中学の関東大会を企画してくださるというのでお願いすることにしました。また軟式野球連盟が主催する中学生大会は11年から九州ブロックでもやっていますので(熊本県軟式野球連盟主催)、当連盟としては近い将来に全国大会までもっていきたいと思っています。
 具体的には全国に9つあるブロックの動きを調査しまして、各ブロックでやっていらっしゃる既存の大会とバッティングしないように地域の連盟と相談しながら、いつの段階にどういうかたちで立ち上げるか、これから充分に話をさせていただきたいと思っています。

――女子中学生の全国大会を企画するなら全女連の加盟は好都合だと思いました。全女連には今30を超す中学生や中高生チームが登録しているので。
宗像 そうですね。ぜひ中学生大会のためにご協力いただきたいと思っています。またもう一つ大切にしていきたいのが中体連の野球部会専門部との連携です。今中体連で野球をやっている女子がだいたい1600人弱いますから。

中学野球部にも女子選手の姿が

――中体連とは協力態勢が作れそうですか?
宗像 正直に言いますと軟式野球連盟と中体連の関係にはいろいろありまして、かなり協力しているところもあれば、中学校は中学校、連盟は連盟だというところもあります。しかし大切なのはやはりジュニアの育成ですから、その環境作りのために今後各地の連盟と中体連の間に我々が入って、ある程度協力態勢が作れるように調整していきたいと思っています。

――中学より先の環境作りについてはどんなビジョンをおもちですか?
宗像 もし来年か再来年中学の全国大会がスタートして3年か4年実績が残せれば、日本高等学校野球連盟の軟式部のほうと話をして、高校でも軟式野球の全国大会をやれるようにしたいと思っています。

――今、主に私立高校が一生懸命硬式野球部を作っているので、みんな高校は硬式に行くものだという流れができていますが、軟式野球部ももっと増やしたいと?
宗像 そのとおりです。やっぱり私は高校でも安全性が高く、費用も安く、練習場所も確保しやく、ケガの少ない軟式野球をさらに普及させていきたい。そのなかで将来女子プロ野球に行けるような優れた選手も育成していきたいですね。
 私もやる以上は中途半端は嫌なものですから、ある程度形は作っていきたい。
 

軟式野球の発展のために協議会を設立  

――高校の次は大学ですが、軟式には全日本女子大学野球連盟という長い歴史をもつ女子野球団体があります。こちらに全日本軟式野球連盟から加盟を促すことはないのですか?
宗像 今まではありませんでした。しかし先ほども言ったように、基本的な理念として小学生、中学生、高校生、大学生、一般という一つの道しるべを我々が先頭を切って作っていきたいと思っているので、今後大学の皆様のご意見もうかがいたいと思っています。

説明

――去年11月、日本代表を強化して野球人気を取りもどそうという「侍ジャパン」の記者会見がありましたが、その時に発表された今後の野球界の展望図を見ますと、みんなの憧れは硬式の日本代表とプロ野球になっていて、軟式野球はサポート的な位置で小さく書いてありました。その図を見ながら、軟式野球界はこれからどういうふうに野球の世界を支えていくおつもりなのだろうと思いましたが。
宗像 昨年4月、アマチュア4団体(日本野球連盟、全日本大学野球連盟、日本高等学校野球連盟、全日本軟式野球連盟)の統括団体として新たに全日本野球協会が発足しましたが、おっしゃるとおり、その中で全日本軟式野球連盟の存在意義が問われています。だからこそ何のために軟式野球をやるんだという原点に返ってロジックとミッションを作っていく必要があるのです。

 そこで今年の秋ぐらいに全国大会を開いている約16団体(還暦野球、早起き野球、全女連、中体連、大学野球など)の方々にご案内を出して、「軟式野球協議会」を作りたいと思っています。そして軟式野球の素晴らしさや、今どういう状態で今後どういうことが予想されるのか、そしてそれに対してどういう対応をしていくのか、軟式野球を通じて教育、社会、地域にどんな社会貢献ができるのか、いろいろな観点、角度から大いに議論を展開していただき、新しいアイディアを賜りたいと思っています。

――そのときに女子の視点も導入すると。
宗像 はい、そうです。それによって女子野球の発展と軟式野球の発展に大きな相乗効果が得られると期待しています 

女子野球の新たな規定作りに着手  

――子どもから大人までの女子野球環境を作るうえで、何か考えていることはありますか?
宗像 全日本軟式野球連盟の女子野球をスタートするのであれば、やはり女子でないとできないプレー、女子だからこその魅力を表現できる環境作りというものが必要ではないかと思っています。
具体的には女子に合ったルール、用具というものを研究したいし、女子が動きやすいユニフォームも作りたい。ケガをしない、体力を増進するというスポーツ本来の意味に立ち返れば、男と同じ塁間、投本間でいいのかということも検証してみる必要があると思っています。

――男子や女子硬式野球とは全然違う女子野球を作ってしまうイメージですが。
宗像 とらえ方によっては大きな誤解をされるかもしれませんけれども、野球の基本はそんなに変形できないと思いますし、許容範囲の中で女子らしい野球というものをやれればいいなあと思っています。たとえば女子の場合はあと1メートル塁間を短くすれば素晴らしいファインプレーが続出すると。ホームランも出て試合展開がエキサイティングになると。見ている人が男の野球より楽しいと感じて、いつの間にか女子野球を見る人が多くなってきたというのが理想だと私は思うのですが。

全女連の全国大会にて

――男子の真似をするのではなく、女子に合ったものを連盟のほうから提案していく?
宗像 はい、私はそのようにして女子野球を普及していきたいと思っています。逆にそういうところに目を向けなかったのは、やっぱり野球は男の世界という感覚が強かったからでしょうね。

――心配なのは中学野球部員にとっては2つのサイズができてしまうことです。
宗像 そうなんです。その点については中体連の野球部会専門部の先生方や校長会の皆様に色々ご相談申し上げたいと思っています。

 いずれにせよ何から何まで一度に変えることはできませんが、目標目的を明確にすることによってみなさんにご理解いただけるものと思っています。理論の裏づけも、たとえばなぜ塁間を短くするんだ、なぜこのボールやバットなんだ、年代別の女子の体力や筋力は、ケガをしない投球制限は、といったことを大学の先生方や用具メーカーの方々のご意見を賜りながらしっかり行い、女子に合ったものを整備して当連盟の野球規則に入れたいと思っています。

 あと球場などに女子専用の更衣室やシャワー室、トイレを用意してくださるように施設を管理されている方々にはお願いしています。これからは女子もたくさん入ってくるよと。河川敷にグラウンドがあるだけで女子用のトイレもなければ更衣室もないでは、やっぱりやる人がいなくなってしまうでしょう。

――女子の環境作りがどんどん進みそうですね。
宗像 はい、そうしたいと思っています。また近い将来中学生の全国大会をやるのであれば、全軟連としてはただ単に女子の大会を作るだけでなく、将来はこうしたいよという大きな目標、年次計画などを掲げながら日本の女子野球というものを発信していきたいと思います。

 本来スポーツの存在意義や成果は勝ち負けだけでなく、体力増進、人間的、精神的成長、スポーツ経済学や地域社会貢献というものにまで目を向けて検証されなくてはなりません。そうでないと何のためにスポーツをやっているのかということになりますから。そして検証の際には男性の視点だけでなく女性の視点も入れていく。それがこれからの軟式野球だと思っています。

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