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中京大中京高校

コラム 2020年1月24日

 もう一つの高校野球

中京大中京高校「女子軟式野球部」の躍進

全国大会で準優勝。19年現在、3年生9人、2年生7人、1年生6人。後列左端は土井和也監督。

※この記事は2019年8月21日に「週刊ベースボール ON LINE」(WEB)に掲載されたものです。

 男子高校野球の雄、中京大学附属中京高校(愛知県)に、女子軟式野球部があるのをご存知だろうか。その指導は、硬式野球をふくめたすべての高校女子野球部(19年8月現在、硬式36、軟式6)のなかでも、トップクラスの質を誇る。
 軟式の女子高校生たちの最大の目標は、毎年8月に行われる中高生の全国大会「全日本女子軟式野球学生選手権大会」(全日本女子軟式野球連盟主催。地区代表24チームが出場)だが、同部は創部2年目で東海チャンピオンとしてこの大会に出場すると、3年目には3位、4年目にはベスト8、そして5年目の今年は遂に準優勝に輝いた(上の写真)。
 その躍進の秘密と、チームの魅力を紹介する。

「賢く、かっこよく、爽やかに」

 中京大中京高校に女子軟式野球部ができたのは、2015年4月。当時男子軟式野球部顧問だった土井和也教諭(31歳、社会科)の発案によるものだった。
「そのころ本校の軟式野球部には女子選手が2人いましたが、日本高野連主催の夏の大会に女子は出られません。だからなんとかして彼女たちに活躍の場を与えたいと思ったのです」
 早速校長に相談すると、「いいよ」とすんなり許可が下りた。軟式野球部には毎年必ず2、3人女子選手がいたので、学校としては特に驚く提案ではなかったらしい。こうして土井教諭が部長兼監督、選手は10人という体制で活動がスタートした。

五大陸を表した校章がカッコいい。

 筆者が同校の練習を初めて見たのは、全国大会で3位に入る直前の17年春だった。「女子軟式野球部あるある」で、選手は少年野球経験はあるものの、中学でソフトボールに転向した人が多く、なかにはまったく野球経験がない人もいた。しかしキャプテンの指示の下、彼女たちの動きはキビキビとして無駄がなく、今自分がなすべきことに集中しているように見えた。何よりも素晴らしかったのは、彼女たちが実に楽しそうに練習していたことだ。

 当時1年生で、現在はキャプテンでエースの渡邊もえ選手(3年)は言う。
「楽しそうですねという言葉は色々な方から言われます。でもその楽しさは遊び感覚の楽しさではなくて、全力で取り組むことによって、できなかったことができるようになったり、何かを成し遂げることができたという楽しさなんです。また自分の成長だけでなく、仲間の成長を見るのも楽しさの一つです。その楽しさが積み重なってチームの力になると思っています」

 こうしたものの見方、人間性を培っているのが土井監督の指導だ。その考えを端的に表しているのがチームのスローガン「Play SMART(プレイ スマート)」=賢く、かっこよく、爽やかに、だ。

「頭を使い、閉鎖的にならず、相手に敬意をもって行動しなさい、という意味です。たとえば挨拶も内輪だけで通用する『あざーす』ではなく、『ありがとうございます』と言う、ユニホームや制服の着こなしをきちんとする、ルールを守る、ベストを尽くす、勝ったら勝たせてもらったという思いをもって行動するなどですね。生徒たちには、周りの人から自然と応援してもらえるチーム、人間になりなさいと話しています」
 全国大会で優勝することは目標であっても通過点でしかない。これから先の人生は長いのだから、野球と同時進行で、社会で役に立つ力を身につけることが大切だ、と若き指導者は力強く言葉を続ける。

 こうした理念の陰には、高校時代(豊田西高校)、自分たちを県大会ベスト4に導いてくれた恩師の教えがあった。「色々なことにアンテナを張って、言われなくても気づき、率先してやれる人であれということですね」。その思いを胸に中京大学に進学。卒業後は、もっと教育の勉強をしようと愛知教育大学の教職大学院に3年間通い、中京大中京高校に入職した。野球は大学院を卒業するまで社会人軟式野球クラブで続け、遊撃手としてプレーした。

このチームを選んだ理由。選手たちの思い

 同校にはグラウンドが一つしかない。それを男子硬式野球部、男子軟式野球部、女子軟式野球部がエリアと時間を分けて使っている。最初は、え、ここで女子もやるの? と思った人がいたに違いない。しかし「だからこそ、お遊び感覚の部活では申し訳ない」と土井監督は言う。

全国大会にて。土井監督は男子硬式野球部副部長も兼ねている。

 平日の練習は朝7時から約1時間、放課後は18時半ごろまで行う。週末は東海の女子軟式野球大会や練習試合があり、遠征も全国大会をふくめ、関東や関西に年5回ほどする。大学進学率100%、難関国公立大学を目指している人もいるだけに、野球と勉強の両立は「すっごくきついです」と選手たち。それでも「このチームに入ってよかった」と、皆が口をそろえる。

 選手たちはいったいどんな思いでこのチームを選び、野球を続けてきたのだろう。8月12日、全国大会で準優勝した選手たちに話をうかがった。
 
■渡邊もえキャプテン(3年、投手。少年野球→中学ソフトボール)
「すでに入部していた中学のソフト部の先輩が、すごくいいチームだから一緒にやらない? と誘ってくれたからです。私たちの目標は、部活を通して『Play SMART』を体現することなのですが、おかげで野球だけでなく、人間的な面でもすごく成長できたと思います。将来は看護系の仕事に就きたいと思っています」

■廣瀬知南副キャプテン(3年、捕手。少年野球→小4~中3ソフトボール)
「本当は高校でもソフトボールをやりたかったのですが、ソフト部がなかったので野球部に入りました。でも先生は、ソフトはこうだけど野球はこうするんだぞと丁寧に教えてくださったので、今は野球のほうが面白い、かっこいいと思っています(笑)。
 この2年半で、自分の考えを相手の目を見て伝えることができるようになりましたし、周りの人の様子に気を配れるようにもなりました。ほかの人のファインプレーでもすごくうれしいです。
 全国優勝には一歩及びませんでしたが、やれることはすべてやったし、野球はやりきったと思っています。とても充実した時間でした」

■川地ユメ子選手(3年、中堅手。小学校時代は女子学童野球の「オール愛知ガールズ」のメンバーとして、全国大会優勝。中学では陸上)
「入学したときは女子の野球部があることを知らなくて、男子硬式野球部のマネージャーになるつもりでした。でも土井先生が熱心に誘ってくださって。
 朝から夜まで練習はすごくきつかったですけど、先生は私たちの成長を喜んでくださったし、電車に乗ると知らない人に『中京高校の女子野球部の人? がんばってね』と応援していただいたので、その期待に応えたいという気持ちでがんばりました。
 英語が好きなので、将来は英語の先生になって中京高校にもどり、土井先生のお手伝いをしたいです」

■岡田葵選手(1年、投手。川地選手と同じく「オール愛知ガールズ」で全国大会準優勝。中学でも女子軟式野球クラブ「愛知アドバンスジュニア」で全国制覇)
「中学のときから中京高校で野球がしたいと思っていました。対戦したとき、とても強くて元気がよく、練習にも真剣に取り組んでいて印象がよかったからです。文武両道なのも魅力でした。中学時代の仲間で女子硬式野球部のある高校に進学する人もいましたが、私はこの学校がよかったです。
 高校女子軟式野球部の数が少ないので(2019年時点で全国に6つ)、女子の中学生や大学生、社会人と試合をすることが多いのですが、実力のあるチームと戦いたいので、高校生と試合をする機会が少なくても気になりません。
 将来は中京大学に進学して、体育の先生かスポーツトレーナーになりたいです」

率先してグラウンド整備をする土井監督(左)。初心者から経験者まで、メンバーの野球経験は様々(中央)。後片付けもテキパキと(右)。

父親たちが評価する、監督の指導と娘たちの成長

 今年の全国大会で、中京大中京高校は打ちまくって決勝に進出した。女子軟式野球は長打が出にくい分、バントなどの小技に磨きをかけるチームが多いが、土井監督の野球は違う。「一番から九番までホームランが打てるチームになろうな」と声を掛け、制約の多い練習環境にあっても、練習方法を工夫して打撃力をつけてきた。準優勝はその成果といっていい。

 その応援席には、たくさんの父親たちの姿があった。彼らはとても仲が良く、結束も固いのだとか。土井監督の指導を信頼し、年4、5回の遠征費も嫌な顔一つせず出してくれる。

 選手と指導者と保護者が三位一体になった野球部。そしてまるで教育野球の原点を見るかのような指導理念と監督の統率力。野球に真剣に取り組み、自分も仲間も一緒に成長したいと願う選手たち。強さの秘密はそこにある。
 ここに来れば、きっといい青春の日々が送れるに違いない。そう思わせる爽やかなチームだった。

岡田選手(左上)、土井監督(右上)、渡邊キャプテン(奥)と川地選手(左下)、廣瀬選手(右下)。

冒頭の集合写真提供/中京大中京高校

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