中学生の軟式野球は今
特集 ★2014年5月29日
動き出した中学生の軟式野球環境
中学生の軟式野球は今
猛スピードで増えている女子中学生チーム
2013年に小学生の全国大会「NPBガールズトーナメント」ができて以来、女子軟式野球界が目指す次の目標は中学生の環境作りになった。ではどうすれば良い環境ができるのだろう。
まず現状から見てみよう。状況は刻一刻と変わっているので、14年春の状況ということで話を進めたい。
図1は14年4月時点の全国の中学生チームだ(小中学生チーム、中高生チームをふくむが、いずれも中学生がメイン。またKボールオンリーのチームもふくむ)。全部で30都道府県51チームあり、えっ? こんなにあるの? と思われた方も多いだろう。
08年には中学生チーム(クラブ)はたった5つしかなかったが、12年には30チームになり(クラブ、選抜ふくむ)、14年には51チームになったのだからすごい勢いで拡大しているわけだ。しかもクラブチームは数だけでなく規模も拡大していて、40人近い選手を抱えるところも増えている。
その理由はなんといっても小学生の環境が整ってきたからだ。具体的には有志の手作り大会や47都道府県の野球連盟が主催する大会が増えていること、もう一つは13年に小学生たちの目標となる全国大会「NPBガールズトーナメント」(全日本軟式野球連盟とNPBの共催)ができたことだろう。こうした動きが中学になっても女子野球を続けたいという選手の増加に拍車をかけているのだ。
特に東京都でその動きが顕著で、13年10月から14年4月にかけてのわずか半年間に新チームが5つも誕生している。
女子中学生の大会を作っている団体は?
ではどんな団体が中学生の環境(大会)を作っているのだろう。以下はその主な団体だ。
①全日本女子軟式野球連盟と、その傘下の連盟
②地域の野球連盟
③KB野球連盟(Kボールの連盟)
え? 中体連とか全軟連じゃないの? と思われるかもしれないが、残念ながらこの中学野球界の2大組織の中に女子野球というカテゴリーはない。これについては後述するので、まずは上記の団体の活動を見てみよう。(大会の詳細は図2を参照のこと)
①全日本女子軟式野球連盟と、その傘下の連盟
これらの女子野球連盟は1970年代後半から独自のネットワークを作って大人や子どもの全国大会や地方大会を開き、中学生にも活躍の場を提供してきた。連盟ごとに年間計画がきちんと立てられ、一年を通して安定して活動することができるため、全女連や傘下の連盟の大会に参加することを目標に創部するケースも多い。
全女連は現在最も多くの中学生や中高生チームを擁している団体で、クラブチームを中心に私立中学校までをカバーする。
ただし長い年月女子野球連盟は野球関係者から黙殺され、全軟連への加盟も許されなかったため、連盟の存在も大会も、世の中の人にあまり知られていないのが残念だ。
②地域の(軟式)野球連盟
近年、地域の野球連盟も中学生の環境作りに乗り出している。最初に中学生大会を作ったのは2011年の熊本県軟式野球連盟だ(小学生大会も併設)。毎年8月に行われる中学生の九州大会には、各県軟連が中体連の了承を得たうえで野球部などの選手を集めてチームを編成している。選抜チームなので、大会が終わればまた野球部にもどって男子と一緒に練習しているが、年1回のイベントとして九州の女子中学生たちの大きな目標になっている。
また12年には広島県少年野球協議会が、14年には関東軟式野球連盟連合会(関東の軟式野球連盟を束ねる組織)が中学生大会の運営に乗り出している。
③KB野球連盟(Kボールの連盟)
軟式と硬式の中学生チームがKボールを使って試合をするため、軟式のカテゴリーの中で語るのは正しくないが、10年から数多くの女子軟式チームを集めて大会を開き、11年から正式に全国大会を開催している。Kボールの全国大会が着実に軟式の参加チーム数を増やしているのは、軟式の中学生大会が少ないこと、また一般のKボール大会を通して培った全国の野球連盟とのパイプがあるからだ。
これにより、今までほとんど女子野球の情報が届いていなかった地方に軟式の女子選抜ができたり、クラブチームが誕生したりしている。
このほか地域の有志が県軟連や行政と連携しながら大会を運営しているケースもある。沖縄の野球っ子応援会(11年から)や愛媛のONOスポーツクラブ(13年から)がそれだ。
中学野球発展のためにクリアすべき課題
こんなふうに船頭がたくさんいるうえに、それをまとめる組織もないため、女子中学野球界の実態を把握することは難しい。たとえば中学でもがんばって野球を続けようと思っても、どこにどんなチームや大会があるのか、何を目標に活動したらいいのか、そんな基本的なことすらわからないのだ。すべての年代の女子野球を見てみても、中学野球界ほど複雑で混沌とした世界はないだろう。
この状況を改善するために、クリアすべき課題について考えてみよう。
課題① 誰が(どこが)女子中学野球界をまとめるのか
一番頭が痛いのがこの問題だ。本来なら、
■「全日本少年軟式野球大会」(略称・全日本少年)と「全国中学校軟式野球大会」(略称・全中)という2つの中学生の全国大会を主催する全日本軟式野球連盟か、
■2013年現在、1600人弱の女子中学野球部員を抱え、全軟連と一緒に「全中」を主催する日本中学校体育連盟(中体連)
がやるべきだと思うが、困ったことにどちらの組織にも女子野球という概念がなく、女子大会もないのが現状だ。だからこそ心ある人々が独自に環境を作らざるを得なかったのだ。
課題② 通年活動できる環境が少ない
たとえば今後、全軟連などが中学生の全国大会を作ったとしよう。47都道府県の連盟が中学野球部や一般のクラブチームなどから選手を選抜して女子チームを作っても、大会が終われば彼女たちは男子の中にもどっていくしかない。中学時代は男子との体力的な壁にぶつかる時。帰ってもレギュラーとして活躍できる選手がどれだけいることだろう。
つまりいくら選抜チームが増えても、それだけでは環境ができたとは言えないのだ。それが小学校時代との大きな違いで、選抜チームが解散してももどれるチーム、つまり女子クラブチームがいくつもあるというのが目指すべき環境だろう。
特に関東、関西以外は一地方に1、2チーム程度しかクラブチームがないため、クラブチーム作りは急務だ。
また全国の中学校に女子軟式野球部ができることも大切だ。特に誰でも野球を続けられるという意味で公立中学校にできることが重要だろう。公立中学の女子サッカー部はまだ少ないとはいえ全国に点在していることを思えば(※)、野球も遅れてはならない。
※公立中学の女子サッカー部の数は中体連も日本サッカー協会も把握していないが、インターネットで検索すると複数ヒットする。
ちなみに私立中学校まで視野を広げると、野球とサッカーの差はさらに大きくなる。公的な記録ではないが、ある中学受験サイトによると、女子サッカー部のある私立中学の数は首都圏だけで13もあるという。これに対し、中学女子野球部として連盟登録できているのは駒沢学園女子中学(硬式)しかない。つまり野球界には軟式と硬式をあわせても、14年現在、中学女子野球部は全国に1つしかないのである。
動き出した全日本軟式野球連盟
2014年1月、こんな閉塞感漂う女子中学野球界に光が差した。全女連が全軟連に加盟したのだ。これにより、全女連に加盟していた女子チームはすべて全軟連の傘下に入り、晴れて日本の野球チームとして全国の野球関係者に認めてもらえるようになった。もちろん中学生や中高生チームも同じだ。
別な角度から見るとこの加盟のもう一つのメリットが見えてくる。それは女子中学野球を推進するべき軟式の組織がすべて全軟連の傘下に入ったことだ。
つまり全軟連と中体連(軟式野球競技部)という2大組織と、長い年月中学生の環境を作り続けてきた女子野球団体が同じテーブルについて中学生の環境作りについて話し合う機会ができたのだ。
さらに重要なのは、3月20日づけ特集「全軟連の宗像専務理事にインタビュー」で紹介したように、全軟連が早ければ15年にも中学生の全国大会を開くことを表明したことだ。13年に新設された小学生の全国大会「NPBガールズトーナメント」の次のステップとして企画されているもので、これができれば全国の、これまで女子だけで野球をやる機会がなかった中学生にも目指すべき頂点ができることになる。
心配な47都道府県の連盟と中体連、全女連との協調は、うれしいことに全軟連が間に入って調整してくれるという。これがうまくいけば中学野球界は飛躍的に発展するだろう。
ただ全軟連の大会である以上、県代表チームを作るのは47都道府県の連盟ということについて、地域でがんばってきた女子クラブチームの指導者たちから不安の声も挙がっている。
■代表チームはどうやって決めるのか。クラブチームより連盟が作った選抜チームのほうが優先されるのではないか。
■もし連盟がクラブチームや中学野球部というカテゴリーを取り払ってセレクションを行うと、クラブチームの選手が県選抜に入る可能性が出てくる。そうすると人数的に成り立たないクラブチームがでてきて、全国大会の期間中、チームとして活動できなくなる。小学生クラブで実際にそういう例があった。そうならないよう、セレクションではなくチーム単位の県予選をやってもらえないか。
■今まで女子野球に関わってこなかった全軟連や47都道府県の連盟が中学女子野球の現状や問題点を正確に把握しているとは思えない。本当に全女連や中体連との調整役が務まるのか。たとえば中学野球部とクラブチームを兼部している選手の扱いはどう考えているのか。
■そもそも地元にクラブチームがあるということを連盟は知っているのか。
厳しい意見が多いが、全軟連はこうした声に真摯に耳を傾け、中学女子野球界をまとめていっていただきたい。
まず初めに47都道府県の連盟、中体連、全女連が、お互いがどんなふうに女子野球に取り組んでいるのか理解する必要があるだろう。もちろん全軟連のみなさんも。
そのために中学女子野球にかかわる団体の人々が集まって意見交換し、現状を把握したうえで地域にクラブチームや中学野球部が定着していくための踏み込んだ話し合いをしていただきたい。
ジュニア育成という大きな目標のために全軟連の中に女子担当部署を設け、女子野球に関わる団体を結ぶ糸になってほしいと切に願っている。
※「全日本少年」の写真提供/『Hit&Run』(ベースボールマガジン社)