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女の子も甲子園

コラム 2017年8月13日

「女の子も甲子園」は本当に実現するのか?

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キャンペーンの先にあるものは

「本当に女子高校生が甲子園でプレーできるんですか?」

 健康食品会社㈱わかさ生活が、「女の子も甲子園」をスローガンに、漫画『花鈴のマウンド』を日本女子プロ野球機構のサイトに掲載したり、コミックとして発売してから、私のもとにこういう質問がしばしば寄せられるようになった。
 17年8月7日には上記コミックのTV&新聞広告が大々的に打たれ、太田幸司日本女子プロ野球機構スーパーバイザーや、桑田真澄さんが「女子も甲子園へ」という趣旨の発言を、朝日新聞やスポーツ報知紙上で行った。

 でも、この漫画家さんや太田さん、桑田さんは、高校女子野球の歴史と現状をご存知ないのだろうか。
 冒頭の質問に対し、私ははっきりと「NO」と答えている。「そんなことはできません」と、全国高等学校女子硬式野球連盟(以下、女子高野連)から何度も言われているからだ。

 仮にみなさんが高校女子野球のために、大金を払って大会を作ったとしよう。何年も何年も苦労してお金を作り、労力をかけて高校女子野球を支えてきたのに、ある日突然、知らない人たちが「女子も甲子園でやらせてあげたら喜ぶだろう」と言って、勝手に大会、あるいは決勝だけ甲子園にもっていこうとしたら、どう思うだろう。きっと怒るに違いない。

 その篤志家が全国大会の開催地である兵庫県丹波市であり、埼玉県加須(かぞ)市なのだ。丹波市(市島町)がどんな思いで高校女子野球を支えてきたかは、拙著『花咲くベースボール』(※)で詳しく紹介したが、加須市も現在、市民球場を高校女子野球の聖地にするべく、5億円(もちろん税金)をかけて改装中だ(2018年春の全国大会までに完了予定)。

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 ゆえにこの2つの市にとって「女子高校生の全国大会を甲子園で」という話は、とうてい受け入れられないものなのである。女子高野連にとっても、大事なスポンサーであり協力者を失うようなことは、絶対にしたくない。

 不思議なことに、この「女の子も甲子園」のキャンペーンを張っているわかさ生活は、女子高野連にひと言の挨拶も相談もしていない。全国大会の主催者にその是非を確認することなくキャンペーンを行うなど、常識的にありえないが、それが現実に起こっている。
 つまり「女の子も甲子園」というキャンペーンは、わかさ生活が女子高野連や高校側の了解を得ることなく、自分の意志だけで行っているものなのである。

 いったいわかさ生活は、何のために、誰のために、このキャンペーンを行っているのだろう。たとえば甲子園でプレーしたい高校を集めて、わかさ生活、もしくは日本女子プロ野球機構が主催する新しい大会を作るつもりなのだろうか。

 以下はわかさ生活とは関係なく、女子高校生大会についての私見として読んでいただきたい。

 昔からよく聞くのは、「11月なら甲子園があいている」という話だ。実際、まだ女子硬式野球部をもつ高校が5校しかなかった時代、女子高野連が、11月に甲子園で試合をさせようとしたことがある。しかしある学校が「11月は期末試験や進学、就職を控えた大事な時期。高校生活は野球のためだけにあるのではない」と言って不参加を表明したため、実現しなかったという。

 確かに教育野球である高校野球は、大人の野球より制約が多い。男子でも全国大会は春と夏の甲子園大会だけで、あとは各地の高野連が主催する地方大会だけ。日本高野連が勉学が学生の本分として、むやみに大会を増やさないように厳に戒めているのだという。

 では女子はどうだろう。すでに女子高野連が主催する春と夏の全国大会があり、今年からは3つ目の大会として8月末のユース大会(旧ユース選手権大会)が加わった。男子の地方大会に相当するものとして、各地の女子硬式野球連盟が主催するヴィーナスリーグ(関東)やラッキーリーグ(関西)、九州リーグなどがある。上位大会として8月の松山の全国大会(全日本女子野球連盟主催)や、10月末から11月初めの「女子野球ジャパンカップ」(日本女子プロ野球機構=わかさ生活=主催)もある。

 そこに新しく大会を作るのは、多すぎると思うのは私だけだろうか(もちろん地域にもよるが)。真剣に高校生たちの未来を考えるなら、子どもたちを野球漬けにするのは避けなければならない。遠征費の負担も大きいだろう。

 やはり高校生の大会作りは、女子高野連が地方の女子硬式野球連盟と話し合いながら、長期的な視野に立って行うべきだと思う。

本当に甲子園でなければならないのか

「女子にも甲子園の感動を味わわせてあげたい」「競技として認めてもらうために、日本高野連に加盟して男子と同じ甲子園の土を踏ませたい」という声は、一部の女子野球関係者の間に根強くある。その気持ちはとても尊い。

 しかし本当に悔しいけれど、昔も今も日本高野連に女子を受け入れる気持ちはない。もちろん女子高野連として甲子園球場に使用申請することはできるが、今となっては「糟糠の妻」である丹波市や加須市の手を離すことはできない。

 ならば皆さんに問いたい。「本当に甲子園でなければならないのか」と。
 確かに甲子園はたくさんの夢とドラマと感動が詰まった高校野球の聖地だ。でも甲子園はあくまでも器であり、高校野球の象徴に過ぎない。その器が使えないなら、気持ちを切り換えて別の器を使えばいいのだ。

 男子高校野球が時間をかけて甲子園を夢の舞台にしたように、女子も計画を立てて、誰もが憧れる夢の舞台を作ればいいのだ。
 著名人には、それをこそ応援してほしい。

甲子園より大切なもの

 高校女子野球を発展させ、競技として認めてもらうには、甲子園よりもっと大切なものがある。個人的には以下の3つが急務だと思っている。

1、女子高野連の組織強化と、ビジョンをもった育成システム作り

 18年には女子硬式野球部をもつ学校が約30になり、アジアカップは高校生が日本代表になる時代になった。遠からず全国の学校をつなぐ「横のネットワーク」と、侍ジャパンにつながる「縦のネットワーク」をもつ、強固な全国組織作りが必要になるだろう。
 様々な思惑をもって近づいてくる企業や組織を、コントロールする力も身につけなければならない。

 男子のように、高校生だけの地方大会も整備しなくてはならないだろう(現在は中学生、大学生、社会人と一緒)。すでに関東には9校、関西には6校、九州には4校あり、地方によってはそれが可能な状態になっている(参考 → 女子硬式野球部をもつ高校)。

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 幸いにも、女子高野連は2014年に全日本女子野球連盟に加盟し、結果として硬軟のアマチュア組織を統括する全日本野球協会の傘下に入った。言い換えれば、13年までの「任意団体」という身分を脱し、「野球連盟」とみなされるようになったのである。
 大変だとは思うが、ぜひその立場を生かし、必要があれば一般の野球組織と連携しながら、ビジョンをもって高校女子野球を育てていただきたい。

2、野球組織によるPR

 わかさ生活が大金を使って女子プロ野球という目標を作ってくれたおかげで、高校女子野球部の数は飛躍的に増えた。その功績は非常に大きい。しかし一企業が女子野球のPRを担うのはおかしいし、オピニオンリーダーを気取るのも違うと思う。

 やはり女子高野連をはじめ野球組織が、わかさ生活をしのぐ熱意をもって高校女子野球の環境を整え、戦略的に「夢の舞台」などのPRに努めるべきではないだろうか。世間の注目度が高い高校女子野球の認知度が上がれば、女子野球そのものの人気も高まるに違いない。

 それには複数のスポンサーが必要だが、実は女子プロ野球発足当時から、参入したいと打診している企業は複数あり、それを全てわかさ生活が断っている状態なので(何度理由を問い合わせても、返事が返ってきたことはない)、スポンサーは必ず見つかると思う。

3、 女子野球を面白くする規定作り

(高校)女子野球を発展させ、人気を高めるには、女子野球を面白くする規定が必要だと私は思う。また女子プロ野球を引き合いに出して恐縮だが、現在の女子野球が観客動員につながらないことは、女子プロ野球が14年から、選手全員をわかさ生活の社員にせざるを得なかったことからも明らかだ。

 つまり男子と同じかたちで野球をしても、なかなか人気につながらないことがわかったのだ。女子プロ野球で怪我人が続出して、しばしばシーズン途中に試合数を減らしていることも、女子を男子と同じに考えてはいけない証だと思う。
 
 その規定とは、女子の体力に見合ったグラウンドサイズ(ホームランラインなど)や球数制限などのルール、用具などを意味する。規定作りの土台となる運動能力や筋力などの基礎研究も、早急に進めなければならない。
 競技自体が面白くなれば自然と観客が増え、スポンサーがつき、高校生たちの憧れである女子プロ野球も、複数の企業の手によって復活するだろう。

 女子野球が競技として確立すれば、いつの日か甲子園で大会が開けるかもしれないし、もっと素晴らしい「女子の甲子園」ができるかもしれない。その日までに、やらなければならないことはたくさんある。


※『花咲くベースボール』は飯沼素子と平成国際大学女子硬式野球部の濱本光治監督の共同自費出版

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