女子野球に足りないもの
コラム ★2017年1月12日
それでもあえて言いたい。今、女子野球に足りないもの
急速に進んだ女子野球の体制作り
女子野球の取材をして、今年(2017年)で10年になる。その間に女子野球を巡る環境は大きく変わった。
14年1月に女子軟式野球の2大組織のうち、「全日本女子軟式野球連盟」が「全日本軟式野球連盟(JSBB)」に加盟し、同年4月には女子硬式野球の全国組織「全日本女子野球連盟」ができて、女子硬式野球のすべての組織が「日本野球連盟(JABA)」の傘下に入った。
17年1月現在、一般の野球連盟に加盟していないのは、軟式の「全日本大学女子野球連盟」だけだ。
一般の野球連盟の中に入ってそのしがらみに縛られるより、女子は女子だけで自由に活動したほうがいいという声もあったが、少なくとも女子野球が男子野球と同じ土俵に立ったことで、世の中にはびこっている「女が野球なんて」という偏見もずいぶん薄らぎ、認知度も高まったのは確かだ。
今や女子野球日本代表は、前人未到のワールドカップ5連覇を達成し、女子プロ野球は8年目に突入した。競技人口も急激に増えている。女子野球の体制作り、底辺拡大は、硬式軟式とも、一定の成果を挙げたといっていいだろう。
それもこれも、「女子が当たり前に野球をできるようにしてあげたい」という、関係者の熱い思い、努力があったればこそだ。
それでもあえて言わせていただきたい。女子野球が競技として真に発展するためには、足りないものがあると。
それは競技を支える土台の部分、つまり女子野球の研究と、研究者、指導者、審判員などの人材育成だ。マスコミに身を置く者として、女子野球を知ってもらうための広報活動も、圧倒的に足りないと言いたい。
こうした土台の部分が厚くなって初めて、女子野球は男子野球に追いつき、競技として確立されるのではないだろうか。
深刻な研究者不足
このうち、致命的に遅れているのが研究の分野だと私は思う。女子野球の歴史はもちろん、女子の体力とベストパフォーマンスの関係、女子が使いやすい用具やユニフォームなどなど、まだほとんど研究されていないのだ。
なかでも危機感を覚えるのは、投力(遠投、球速)、走力(ベースランニング等)、筋力などの基礎的なデータが、ごくわずかしか蓄積されていないことだ。それなくして、女子の規定(グラウンドサイズ、ボール、球数制限など)は作れないし、レベルアップや怪我のない体作りも望めない。
しかしWBSCや全軟連など一般の野球連盟は、女子の規定作りを急いでいる。それがとても心配だ。
もし本気で女子野球を発展させたいなら、大会作りや勝敗だけでなく、こうした地味な分野にもぜひ目を向けていただきたい。そして「女子のことはわからないよ」なんて悲しいことは言わずに、研究機関と協力しながら必要なデータを取り、研究を進めてほしい。
女子野球連盟も、一般の野球連盟に任せっぱなしにしないで、今まで積み重ねてきた経験やノウハウを生かしながら、積極的に研究に協力していただきたい。
また現場の指導者のみなさんには、「優れた選手」を育てるだけでなく、「優れた研究者」を育てることも念頭において、指導にあたってほしいと思う。
文部科学省が進める女性スポーツ推進の波に乗って、女子野球もようやく男子野球の真似事ではなく、女子のための競技として確立されるべき時に来ている。だからこそ、その基礎となる研究を、連盟と個人、大学、企業などが力を合わせて進めていくことを願っている。