女子野球情報サイト 

第6章

調査報告 2020年12月26日

 優れた能力をもつ選手はどんな人たちか

第6章 上位者の特徴

 5種目総合の上位者と、種目別上位者について検討した。

5種目総合上位者の記録

 5種目総合の上位者(以下、総合上位者)の選出方法は、5種目の順位を得点として合計し、総合得点の低いほうから20%の選手とした。たとえば全種目1位の選手がいたら総合得点は5点となり、この選手が総合1位となる。したがって特定の種目だけ能力が高い選手ではなく、走力、投力、打力がバランスよく備わった選手となっている。
 なお、全種目参加した選手だけを選出対象とした。

総合上位者の特徴

表1より、総合上位者は非上位者より野球経験年数が長く、少年野球経験率も高かった。プレ・ゴールデンエイジ(4~9歳。詳しくは第4章参照)開始者が占める割合も大きかった。

野球またはソフトボールを長く続けている選手が多かった。

総合上位者は非上位者より背が高く、体重も重い傾向にあった。

5種目総合上位者

総合上位に入った高校生、大学生、社会人のスポーツ歴

 どのようなスポーツ経験が選手の能力を育てたのか、高校生、大学生(18~22歳)、社会人(22~49歳)のスポーツ歴を分析した。 
 なお中学生は96%が少年野球経験者であるため、分析対象から外した。

 図2~4は、たどったスポーツ経験別に総合上位者を分類した図である。アルファベットは選手、はその選手が上位20%に入った種目と順位(3位まで)。四角に入ったアルファベットは、総合得点で上位10%に入った選手を表す。

図の見方・例/高校のA選手は全種目で対象者数の上位20%に入り、50m走は2位、遠投は1位の記録を出している。また上位者の中でもさらに能力が高く、上位10%に入っている。

◆高校・総合上位者 

高校生

図1から、ソフトボール経験者が野球経験者と遜色のない競技能力を発揮していることがわかった。

少年野球後に女子が野球を続ける環境は少なかったが、上位者の半数(50%)は少年野球から中学野球に移行した選手が占めた。彼女たち5人は、いずれも中学女子軟式野球クラブでエースや捕手、主将などとして活躍した選手たちだった。

   社会人・総合上位者のスポーツ歴

◆大学生・総合上位者 

大学生

学童期に競技経験がなかったR選手は、家族に野球やソフトボール経験者がいたため、その指導を受けて、幼児期より毎日のようにキャッチボールや壁当てなどをして遊んでいたという。 
 チームによる組織的な練習はなくても、それに準じた経験が、野球やソフトボールの基本的競技能力を育てたと考えられる。R選手をふくめると、学童期に野球やソフトボールをした選手は90%になる。

小学校から一貫して野球を続けている選手たち(A、B、C)は能力が高く、全員が上位10%に入った。

大学生114人のうち、高校女子野球部でプレーしていたのはわずか8人だが、そのうちの3人(38%)が総合上位に入った(硬式野球部…AとB、軟式野球部…H)。

小学校、中学校と野球をし、高校時代に投動作を伴う競技(ハンドボール、槍投げ)に転向した選手たち(F、G)のパフォーマンスも高い。F選手は中学時代に女子軟式野球大会優勝経験をもち、G選手は男子と一緒の中学軟式野球クラブでプレーしたあと、高校では槍投げで関東大会に出場している。

中学、高校とソフトボールを続けた選手たちの能力も高く(I、J、K、L、MとQ、R、S)、特に打力に優れる傾向が認められた。

   高校・総合上位者のスポーツ歴  

◆社会人・総合上位者 

社会人 

総合得点1位のA選手は、全国大会優勝多数の女子軟式野球クラブでスキルを磨いてきた選手(25歳)で、これに大学時代、女子硬式野球部で全国制覇を何度も経験し、現在は女子軟式野球クラブと男子企業クラブ(硬式)を兼部する選手(26歳)が続いた。3位は、高校女子硬式野球部で日本一に輝き、大学卒業後は強豪女子軟式野球クラブで活躍する選手(24歳)である。

 3人とも少年野球を起点とし、長く野球を続けている選手たちだった。

D選手(49歳)に少年野球経験はないが(当時は全日本軟式野球連盟が女子の登録を認めていなかったため)、学童期(昭和50年代)は毎日のように男子とキャッチボールや三角ベースに明け暮れ、当時流行った野球漫画やテレビ番組にドップリはまっていたという。
 したがって大学総合上位者のR選手と同じように、学童時代、チームによる組織的な練習を積まなくても、遊びを通して基本的な競技能力は養えると考えられる。

 ちなみにD選手は後年、女子野球日本代表に8回選出され、本調査を行った時も、週3~4日の筋力トレーニングとランニングを続けていた。

全員投打の柱、あるいは主将として、主体的に野球に関わってきた選手たちである。
  
   高校・総合上位者のスポーツ歴
   大学・総合上位者のスポーツ歴
   5種目総合上位者の記録 トップへ


種目別上位者の記録

 上位者の定義は、対象者数の上位20%にあたる選手とした(記録の上位20%ではない)。たとえば対象者数が100人であれば、記録の良い順に20人選び、それを上位者とした。ただし同じ記録に複数人並ぶことがあるため、種目によって上位者の人数は異なる。

 なお本調査の社会人は年齢の幅が広く(22~49歳)、また加齢の影響があるため、大学生までのデータとは分けて考える。

上位者と非上位者の比較、体格などの特徴

◆中学生から大学生(18~22歳)までの特徴 

表2より、

野球経験年数と少年野球経験率/非上位者を上回る傾向。
 上位者のほうが非上位者より野球経験年数が長く、少年野球経験率が高い傾向があった。この特徴が最も強く現れていたのは投力(投球速度、遠投距離)で、続いて打力(スイングスピード)、走力(50m走、ベースランニング)の順だった。

開始年齢/早期開始者が多い。
 上位者は非上位者より、プレ・ゴールデンエイジ(4~9歳)と呼ばれる早期に野球を始めた人の割合が高かった。ただしその割合は、少年野球経験者の数が減る高校生や大学生では、相対的に小さくなっている。
第4章 プレ・ゴールデンエイジの優位性参照)

走力(50m走、ベースランニング)の上位者/小柄で、50m走は野球経験が浅い人も。
 50m走(短距離走)の記録向上には、必ずしも野球経験や少年野球経験が必要ではないため、入学前に野球経験がない人や、野球経験年数が少ない人も上位に入った。

 対してベースランニング(ダイヤモンド1周)には走塁などの技術が反映されるため、50m走より上位者と非上位者の野球経験年数の差が大きかった。ただし小学校、中学校と野球を続けている人が96%を占める中学生では、両者に差はなかった。
 
 上位者は非上位者より身長が高い傾向があったが、体重は中学生と高校生は上位者のほうが重く、大学生は軽かった。また走力の上位者は、投力や打力の上位者より小柄な傾向があった(身長が低く、体重が軽い)。(第5章 身長や体重との相関参照)

投力(投球速度、遠投距離)の上位者/大柄で、少年野球を起点に長く野球を続けた選手が多い。
 投球技術の向上には繰り返しの運動学習が必要なため、上位者の野球経験年数は長く、また少年野球から始めた人の割合も高かった(中学生・投球速度99%&遠投距離97%、高校生90%、大学生74%)。野球経験年数や少年野球経験の有無は投力に最も影響することは第3章第4章で検証済みである。
 
 少年野球経験がない人でも、ほぼ全員が学童期や中学時代にソフトボールを始めていた。(入学前の野球またはソフトボール経験率…中学生・投球速度99%&遠投距離97%、高校生100%、大学生100%)。

 上位者は非上位者より大柄で(身長が高く、体重が重い)、走力の上位者と比べても大柄だった。

打力(スイングスピード)の上位者/5種目中最も体重が重いのが特徴。
 スイングスピードの上位者には大柄な選手が多かった(身長が高く、体重が重い)。特に体重は非上位者との差が大きく、中学生では8.3kgもの差があった。また走力、投力の上位者と比べても体重が重く、スイングスピードの向上には経験による技術の向上だけでなく、体重が影響すると考えられる。

中学生は、野球部や中学軟式野球クラブと女子野球チームを掛け持ちしている人が多かったが(中学生全体の37%)、上位者は掛け持ちしている人の占める割合がさらに大きかった(最小/スイングスピード41%、最大/遠投距離52%)。

 男子と一緒にプレーする=女子用の小さいサイズではなく、一般と同じ大きなサイズでプレーすることを意味するが、それが競技能力に及ぼす影響や怪我との因果関係は不明で、今後の研究が待たれる。
 なお高校生と大学生は兼部している人が少なかったため、検証していない。


種目別上位者。中学~大学

◆社会人(22~49歳)の特徴 

 時代背景として、20代は学童時代、全日本軟式野球連盟傘下の少年野球チームに入れたが、30代、40代は学童期から大人に至るまで、少年野球チーム、中学野球部、一般の野球チームに入れなかったことを念頭に置いて読んでください。(第2章 社会人の所属と背景参照)
 
表3より、

スイングスピードを除く4種目の上位者は、小中学生時代に野球かソフトボールを始めた人がほとんどだった。

50m走の上位者/20代4人、30代1人。5種目中最も小柄。
 先行研究では、走力は一般的に20歳を過ぎると加齢とともに低下するといわれるが、本研究でも50m走(短距離走)の上位者は5人中4人が20代だった。
 上位者の60%が少年野球経験者で、40%が早期(プレ・ゴールデンエイジ、4~9歳)に野球を始めていた。

 体格は非上位者より小柄で(身長が低く、体重が軽い)、他の4種目の上位者と比べても小柄だった。

ベースランニング(ダイヤモンド1周)の上位者/20代3人、30代1人、40代1人。投力や打力の上位者より小柄。
 同じ走力でも、50m走の上位者より野球経験年数が長く、年齢も高かった。加齢の影響が現れる30代、40代が上位に入ったことから、走塁技術を身に着け、日常的に運動を行っていれば、ベースランニングの能力は維持できる可能性が示された。

 50m走同様、非上位者より小柄で(身長が低く、体重が軽い)、投力や打力の上位者と比べても小柄だった。

投球速度の上位者/20代2人、30代1人、40代1人。遠投距離の上位者/20代3人、40代1人。
 共に走力や打力の上位者より野球経験年数が長い。
 投球技術の向上には繰り返しの運動学習が必要なため、走力や打力の上位者より野球経験年数が長く、平均年齢も高かった。2種目とも30代、40代が入ったため少年野球経験率は下がるが(50%)、小中学生時代を中心に、高校卒業までに野球かソフトボールを始めた人の割合は100%だった。
 
 非上位者より大柄で、特に身長は走力や打力の上位者と比べても高かった。

スイングスピードの上位者/6人全員が20代で、体重は全種目の上位者中、最も重い。
 50%が少年野球経験者で、早期(プレ・ゴールデンエイジ、4~9歳)開始者は33%。高校を卒業してから野球を始めた人が1人いた。

 非上位者より大柄で(身長が高く、体重が重い)、特に体重は走力、投力の上位者と比べても重かった。このことから、スイングスピードの向上には経験による技術の向上だけでなく、体重が影響すると考えられる。
第5章 体重と記録の相関参照)

※社会人は対象者数が少なかったため、今後人数を増やし、さらなる研究が行われることを期待している。また本調査では身長や体重は自己申告だったため、除脂肪体重での検討をふくめ、詳しい研究が望まれる。

種目別上位者。社会人

種目別上位者の平均値と加齢による変化

 上位者の平均値は全体の平均値(第1章参照)とは異なり、50m走、ベースランニング、投球速度は高校生が、遠投距離は大学生が最も良かった。

 高校生と大学生の投力の上位者は、野球経験年数および、入学前の野球またはソフトボール経験率が中学生と同等か、上回っていたことが理由の一つと考えられる(表2参照)。
 言い換えれば、今後少年野球を起点に長く野球を続ける選手が増えれば、走力、投力、打力とも女子野球選手の運動能力のピークは、本研究とは違ったものになると推測される。

 また社会人の上位者は20代、30代、40代とも人数が少なく、それぞれの能力をはかることができなかったため、こちらについても今後縦断的な研究が望まれる。
上位者の平均値の変化


  <第6章 目次>
  5種目総合上位者の記録
   総合上位者の特徴
   総合上位に入った高校生、大学生、社会人のスポーツ歴
   ◆高校・総合上位者
   ◆大学・総合上位者
   ◆社会人・総合上位者
  種目別上位者の記録
   上位者と非上位者の比較、体格などの特徴
   ◆中学生から大学生(18~22歳)までの特徴
   ◆社会人(22~49歳)の特徴
   種目別上位者の平均値と加齢による変化


powered by HAIK 7.3.7
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional